Missing
09

 【お題】再会10題(TOY*様より)
   01:美化しすぎかと思った記憶は逆だったらしい
   02:変わった、いや変わってない…やっぱり、変わったな
   03:思い出話をすれば昔に戻ったようで
   04:君の中ではもう過去のこと?
   05:冗談交じりに打ち明けた、僕の秘密
   06:お互いのイマ
   07:昔も今も、君は僕の心など簡単に奪ってしまうのだ
   08:焦れったい空回り
   09:成長とは恋に臆病になることなのか
   10:ここから始まる新たな関係

<9.成長とは恋に臆病になることなのか>

 抱きしめる腕の感触に、身体があっという間にあの日の感覚を思い出した。
 抱くというより、まるで豪雪の中にたった二人で取り残されたみたいに、必死にぬくもりを求める腕。離したら死んでしまうと言わんばかりの熱が、あの日と同じように俺を捕らえる。
「こいずみ」
 呼んだ名前に、答えは返ってこなかった。
 返事の代わりに、近づいてきた唇が重ねられる。9年ぶりのキスは、憶えていた感触のままのような気がした。

 ――おやすみなさい。
 無理が見え見えの笑顔でそうつぶやいて立ち去ろうとする背中を、思わずひきとめた。あの日の記憶を、俺とお前がずっと大事にしてきた気持ちを、全部まるごと否定するような言葉を投げつけられ、反射的に手が出た。
 違うんだ、古泉。
 お前は誤解してる。そうじゃない。
 お前と一緒にいるのが嫌なわけじゃない。触られるのが不快なわけじゃない。むしろ触って欲しい。もっと近くにいて欲しい。
 だけどこのベッドは嫌だ。お前が俺のものじゃないんだって、思い知らされる。
 ひとりで寝るには、少し大きめのサイズのベッド。さがせばきっとそここに、彼女の痕跡が見つけられるんだろう。口紅の跡だとか、長い金色の髪だとか。うっかりシーツに横たわったら古泉以外の香りを嗅ぎとりそうで、ろくに息もできやしない。
 こんなとこで、眠れるわけがない。胸が灼けるみたいに熱くて、死にそうだ。……ああ、そうだよ。俺は、遠目でしか見たことのないあの彼女に、嫉妬してる。みっともない。
 大人になれば、もっと余裕のある恋愛ができるはずだなんて、思ってたこともあった。高校の頃の俺たちの恋は、不安定でめちゃくちゃで、だけど熱情と欲望だけで突っ走っていた。それはそれで悪くはなかったけれど、大人になったらそんな恋の代わりに、もっと落ち着いた分別のある恋愛ができるようになるんだなんて、なんの根拠もなく思ってた。それが、成長なんだろうなんて。
 幼い子供の頃は、大人には怖いものなんてないのだと思っていた。父親は強くてたくましくて、なんでも出来るのだと無邪気に思っていた。
 だけど実際に大人になったら、怖いものなんて増えるばっかりだ。怖くて怖くて臆病になって、自分の本当の気持ちだって、なかなか言えやしない。
「お前がっ! 俺じゃない誰かと、セックスするベッドになんか、寝たくねえんだよっ!」
 思い出を否定して、全部を拒絶して立ち去ろうとする背中。
 ここまで追いつめられなければ、こんな本音すら言えやしない臆病者なんだ、俺は。

 しどろもどろと言ってもいい情けない態度で、古泉は本当はあの金髪の彼女は恋人ではなく、ただの仕事のパートナーだと言った。キスまでしといてその言いぐさはないんじゃねぇかと思ったが、まぁそこは流してやってもいい。どうやら、再会したときに一緒にいた編集者の彼女が俺の恋人なのだと、妙な勘違いしてたみたいだし、見栄を張りたい気持ちはわかる。
 それに、いまさらのように卒業式の日の告白を蒸し返され、言葉では告げられなかった俺の答えをようやく伝えたら、そんなことはもう全部、どうでもよくなっちまったから。
 9年前のキスは、感触は変わらなくても、もっとぎこちなかったと思う。
 儀式みたいにかわした最初のキスは、ただ唇同士をくっつけあうだけだった。それだけで胸がいっぱいになった。でも今はもう俺も古泉も、キスのひとつふたつで大騒ぎするような歳じゃない。場数だってそれなりに踏んでるから、余裕を持ってお互いの唇を味わうことだってできる……はずなのにな。なんだって俺はこんな、たかがキスだけで死にそうにドキドキしてるんだ。
 生暖かい舌が、唇をなめる。反射的に開いた唇の中に入り込んできた舌に舌が触れた途端、しびれるような感覚が背筋を走った。絡められてなぞられて啜られて、気持ちよさに頭がぼーっとする。唇が離れてやっと我に返ったときには、俺はいつのまにかベッドに倒され、のしかかっている古泉の背中に手をまわして、シャツにしがみついていた。
「こ……いず……み」
 荒い息の下から、名を呼ぶ。部屋の灯りはつけていなかったから、リビングからの光を受けて逆光に沈む古泉の表情は見えにくい。
「……泣かないで」
 そう言われて目元を指で拭われて、俺は自分がまだ泣いてることに気がついた。なんだかちっともおさまらない。涙があとからあとから湧いて、嗚咽も止まらなかった。泣き上戸だったんかな、俺。
「うっせ……誰のせいだとおも……っ」
「そうですね。……ごめんなさい」
 唇で、目蓋を拭われる。横たわっていたせいで、目尻からこぼれて耳に入りそうになっていた涙の跡を、古泉の唇と舌が追う。やがて舌が耳朶にたどり着き、そこを甘く噛まれ中にまで舌を入れられてぞくりと身体が震えた。
 嘘だ。すまん。お前だけが悪いんじゃない。
 俺たちには勇気が足りなかった。歳ばっかりとっちまった俺たちは、世間体とか相手の気持ちとかを大事にするふりをして、自分の気持ちに正直になることを恐れてた。もう昔のことだからとか、若さゆえのあやまちだとか、言い訳を見つけては、ぶつかって傷つくことを避けていた。お互いに、ずるい大人になっちまったな。
 いや、もしかしたらあの頃だって、同じだったのかもしれない。互いの気持ちを察しながら、親友のふりをし続けるなんて茶番劇を続けるより、どちらかが勇気を出して行動していれば、9年もの長い長い遠回りをする必要なんてなかったかも。まぁ、いまさらなんだけどさ。
 耳に感じる、熱い息。
 好きです、好きですと、飽きもせずくり返すかすれた声。
 まるで堰き止められていた河が決壊したかのように、古泉は9年分の想いを、容赦なく俺にぶつけてきた。にじむ視界に映る古泉の顔は、熱に浮かされてるみたいに真っ赤で目が潤んでる。喰われそう、と思った次の瞬間には再び唇をふさがれて、貪るような勢いで口腔内を荒らされた。その間に古泉の手は俺の服を引きちぎらんばかりの乱暴さでひっぺがし、そして全身の隅から隅まで、それこそ頭のてっぺんから足の爪の先までくちづけて、侵略のしるしをつけていった。
 脱がされた直後には、ちらっと不安が頭をかすめた。前にしたときの俺の身体はまだ、男のと言うよりは子供の身体だったから、抱くにもそんなに抵抗は感じなかったろう。でも今はもう、どこからどう見たって俺の身体は大人で、それだってあれだってしっかり男なんだから、そんなものを見たらさすがの古泉だって萎えるんじゃないかって。でもそれは、まったくの杞憂だったようだ。
 俺は乳首を責められてはもどかしさに身をよじり、脇腹やヘソに舌を這わされては自分の新たな性感帯を知った。そんなところばかりを執拗に愛撫され、肝心のところはほったらかしでさんざん焦らされた。
 さっきまでとは違う意味の、涙も嗚咽も止まらない。もう死ぬと思ったころ、先走りでどろどろになって痛いほど張りつめていたソレの先端を咥えられて、それだけでイっちまいそうになった。瞬間、我慢できなくて我ながらびっくりするほど高い声が出て、古泉がすごく嬉しそうな笑顔をみせた。蹴りの一つでも入れてやろうと思ったけど、すぐに全体を口に含まれ吸い上げられ、目眩がするほど気持ちよくてそれどころじゃなくなった。数分ももたずにあっけなく達してしまい、肩で息をしながら、俺はちょっと自己嫌悪した。
「……大丈夫ですか?」
 人に泣くなとか言っておいて、泣かせるようなことばっかりしやがる。俺は涙でにじむ視線を古泉に向け、睨みつけた。
「おっまえ……がっつき、すぎだろ……」
「すみません。もう……押さえられなくて」
 俺が放った白濁を全部飲み下し、さらに手についたものを舐め取りながら、古泉は申し訳なさそうに、それでも幸せそうににこにこと笑う。
「9年分です。9年の間たまりにたまった想いですから……もう自分でもどうしようも」
「何言ってやがる。……ずっと相手がいなかったってわけじゃないんだろうに」
 一方的に翻弄されたのが悔しくて、ついそんな憎まれ口をたたいてしまう。すると古泉の笑みは少しだけ苦いものになった。俺の方へと手を伸ばし、ぎゅうっと強く抱きしめる。
「そういうの、やめてください……。仕方ないのはわかってるのに、そもそも僕だっておつきあいしてた人はいるんだからおあいこだっていうのに、離れてた9年の間にあなたが親しくしていた人間全部を、憎んでしまいそうだ」
 古泉の手が髪をなでる。ゆっくりと梳くような動きが、気持ちよかった。
「あなたのこの髪に、肌に、唇に、舌に、僕以外の誰かが触れたかと思うと、嫉妬でおかしくなりそうだから、わざと考えないようにしてるのに……」
 髪を梳いていた手はやがて俺の肩に触れ、背中をなぞり、腰へと降りて行く。確かに、この数年の間に彼女がいなかったわけじゃないから、俺はただ黙って、古泉がしたいようにさせていた。もちろん気持ちは痛いくらいわかる。俺だって同じだ。見も知らない相手に、どれだけ俺は。
「……っひ! ちょ、お前どこを……っ!」
 身体を這いまわっていた古泉の手が、するりと滑ってとんでもないところにもぐりこんできた。触られた途端にビクッと身体が勝手に跳ね、思わず逃げだそうとしちまう、そんな場所。まぁ、あれだ。後ろの。
 入り口をさぐるようになでた指が、身をよじると意外にあっさりと離れていく。と思ったら古泉のその手はベッドサイドのテーブルに伸び、置いてあったチューブみたいなものを取って、器用に片手で蓋をはずした。カタ、とテーブルにそれを戻す音が聞こえたと思ったら、すぐにまた手が俺のそこに戻ってきて、今度はずるりと中にねじこまれた。
「っあ……! ま、待て、うあ、ちょ」
 そうしながら、古泉は俺の耳元にそっと質問を投げかけてきた。
「……こちらは、あのとき以来?」
「あっ、あたり前だ馬鹿、俺は、そんな特殊な性癖は」
 俺の性的嗜好は極めてノーマルだから、男とつきあってそこでする必要にせまられたことも、彼女とマニアックなプレイに興じたこともない。風俗にも縁がないし、ましてや自分でするときにそこを使う趣味もない。こんなところに何かを迎え入れるなんて暴挙をおかしたのは、古泉曰くのあのとき≠セけだ。
 チューブの中身がなんなのかはわからないが、潤滑剤としての役目は果たしているようだ。ぐちゅぐちゅと聞くに堪えない音をたてて、古泉の指がだんだんスムーズに、奧へと飲み込まれるようになってくる。きもちわるい……というか、妙な感じだ。シーツをつかんで必死に耐えていたら、さっきの恨み節が嘘みたいな上機嫌で、古泉がふふっと笑いをもらした。
「じゃあ、あなたのココは、僕の専有ってことですよね」
「こ、の変態っ……!」
 変態でいいです、と古泉は笑って、さらに指を増やして俺の中を蹂躙する。気持ち悪さはいつのまにか薄れ、やがてぞくぞくと快感みたいなものが生まれてきた。
 ヤバイぞこれ。なんかすごい。前をしごいて得るのとは種類が違う感覚。俺は足を限界まで広げてシーツに指を食い込ませ、ガクガクと腰を揺らしながらあがりそうになる声をこらえた。歯を食いしばる唇の端から、だらだらと唾液がこぼれる。指がどこかイイ場所をこすったらしく、脳まで達する強烈な快感が背筋を貫いて、身体が大きく跳ねた。
「ふあ……! あっ、ぁあ!」
 しつこくしつこくそこを擦られ、どうにもならない気持ちよさに身をよじる。自分の姿がどんなひどいことになっているか、考えたくもない。
 やがて、ずる、とそこから指が抜かれた。その喪失感にたまらずまた声をあげたら、今度はそこにとっくにガチガチな状態の、古泉の、があてがわれた。
「……挿れます、よ」
「んっ……」
 火傷しそうに熱いそれは見るからに恐ろしげだったけど、意外とスムーズに俺の中に挿入っていった。指よりももっと質量のあるものが、ぐいぐいと俺の内側をこする。憶えのある感覚ではあるけれど、内臓が押されるのは苦しい。やっぱ痛い。
「い、痛……っ」
「も、ちょっと……」
「……んく……っ」
 双方必死の奮闘の末、ソレはようやく一番奥まで進入を果たした。古泉は、一息ついて唇で俺の涙を拭いながら、大丈夫ですかと聞いてきた。大丈夫なわけねーだろと涙声で答えたらすごく困った顔をしやがったから、俺は汗で湿った古泉の髪をつかんで引き寄せ、キスしてやった。
「ここまでしといて、いまさらやめるなんて言わねえよな?」
 これが強がりだなんてこと、古泉にはお見通しだろうと思う。が、それをしている俺の気持ちを理解しないほど、野暮でもないはずだ。思った通り古泉は、情けない顔で笑って、もちろんですと言ってくれた。
 俺の中で熱く存在感を主張しているソレは、慎重にそろそろと先端近くまで抜かれ、また押し込まれ、やがてさっき発見されたイイ場所を中心にえぐるように動き始めた。動きがスムーズになるごとに痛みはだんだん遠のいて、内側がこすられるたびに言いようのない快感が背筋を走る。正直、気持ちよすぎて声も腰も止められない。
「んん……っ、んあ、あ、なん……でっ」
 前にしたときも確か、一生懸命にほぐし、なんとか挿れて中で出すことは出来た。憶えているのは痛かったことと苦しかったことばかりで、行為自体が気持ちよかったという記憶はないけど、精神的には満足だったからそれでよかったんだ。でも。
「あ、あ、ひゃ、んあ、や、も、だめ、きもちい……っ」
 あのときとは、なんか違う。俺、なんでこんなとこに突っ込まれて、こんな感じてんだ。絶対おかしいだろコレ。
「こいず……っ、だ、めだなんか、おれおかしい……っ」
「いい、から、もっともっと、気持ちよく、なって……」
「あ、やだ、いっ、く、イク……っ!」
 中への刺激と、腹の間で擦れるアレへの刺激が重なって、俺を翻弄する。身体の奧からこみ上げるマグマみたいに熱い固まりが、出口をもとめて噴き上がる。
 耐えきれずに俺は、古泉にしがみついたまま、悲鳴じみた声を上げて射精した。と、同時に古泉の腕にも力が入り、ひときわ強く腰が打ち付けられる。
 息が整わないまま、噛みつくみたいな勢いでキスされて、また涙があふれた。

 疲れ切ってうとうとしている額に、唇の感触。
汗ばんだ身体がそっと離れていこうとするのを感じて、寝惚けた頭の中で記憶だけが巻戻る。9年前、春の雨の音を聞きながら眠っていたあの日に。
 ああ、古泉が行っちまう。俺を置いて、遠くに。
「……いずみ」
 半分眠ったままで呼んだ声は、寝言だと思われたらしい。一端、降りかけたベッドに再び戻ってきた古泉は、もう一度俺の前髪をかきあげてキスしながら、ささやいた。
「だいじょうぶ。もう、どこにも行きませんから」
 そのひとことに安堵して、今度こそ俺は、深い眠りの中に落ちていった。
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(2011.12.04 up)

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キョンのターン。
エロです!(爽)