なんでお前が

【お題】デートのおみやげ


「いらっしゃ〜い! ハルにゃんたちじゃないキョンくんのおともだちって、めずらしーね!」
「だまらっしゃい」
 学校帰り、客を引き連れて家に帰ると、飛び出してきた妹が
第一声でそんなことを言いやがった。
確かに我が家に来る友人関係といえば、最近はSOS団のメンツばかり……というか、
特にそのうちの1人ばっかりだったかもしれん。が、ほっとけ。言うな。
 俺と妹のやりとりにくすっと笑い声をもらし、本日のめずらしい<cレの
片割れがかがんで妹と目の高さをあわせる。
「ねぇ、僕のことは憶えてないかな? 前にも来たことがあるんだけど」
「んーとぉ……。あ、思い出した! 国木田くん!」
「そうだよ。当たり。えらいね〜」
「えへへー」
 頭をなでられて、嬉しそうな我が妹。人なつっこいのはいいが、そうやって
誰にでもなつくんじゃないぞ。お兄ちゃんは心配だ。
声には出さずにおいた兄バカな発言を知るよしもなく、妹は残されたもう一人の
同行者の方を向いて、パチンと両手をあわせた。
「あ、わかった! じゃあ、こっちの人は谷口くんだ!」
「おお? なんで知ってんの? もしかしてオレって、幼女にモテモテ!?」
「アホか。犯罪起こす前に殺すぞハゲ」
 ハゲじゃねえ! と騒ぐのをほっといて、俺は妹になんでわかったんだと
聞いてみた。
「だってキョンくんのお話にときどき出てくるんだよ。国木田と谷口がーって。
だから、そうかなって思ったの!」
 そういやこいつらのことを話すときは、セットで語ることが多かったかな。
よく憶えてるもんだ。
「そうかそうか。お前は賢いな。だからシャミ連れてどっか行ってなさい」
「えー! あたしも仲間に入りたい−!」
「男同士の話だからダメだ」
「キョンくんのケチー!」
 食い下がる妹をなんとか追い払って、俺たちは2階の俺の部屋にあがった。
まぁ別に、普通にダベりにきただけなんだがな。

 今日のツレがSOS団じゃなくこいつらなのには、たいした理由があるわけじゃない。
 ハルヒが家の用事だとかで団活を休むと宣言し、メールで他のメンバーに
それを告げたところ、今日はそれぞれがそれぞれの用事を済ませることになっただけだ。
朝比奈さんは鶴屋さんとお買い物、長門はコンピ研に顔を出すらしく、
古泉はよくわからんくどい言い回しだったが、どうやら機関の方でなにかあるらしい。
 ……まぁ、せっかく団活がないのに用事が入ったことを嘆く文面だったのはわかった。
俺も期待してなかったというと嘘になるが、こればっかりはしょうがないさ。
 そんなわけで放課後の時間をもてあました俺は、国木田と谷口を誘ってみた。
ゲーセンかカラオケにでも行こうかという話になったのだが、いかんせん毎週末に
理不尽な搾取にあっている俺には金がない。
そこで俺んちに来て、ゲームでもしながらだらだら過ごそうってことになったわけだ。
まぁこれも、ある意味正しい高校生の放課後だよな。

「そういや谷口、こないだ言ってた彼女、結局どうなったのさ」
「聞いてくれるなよ国木田〜。聞くも涙、語るも涙って話で」
「んじゃ聞かない」
「聞けよ! 聞いてくださいお願いします!」
 相変わらずのやり取りだな。
「彼女って、またナンパでもしたのかよ」
「聞いてくれるかキョン! それがさ〜、先週の日曜にCD屋でさ」
 身振り手振りを交えて谷口が話したのは、ナンパして約束を取り付け、
舞い上がってデートしたものの、それきり連絡がないというある意味で谷口らし〜い話だった。
「デートのおみやげが欲しいっていうからさ、俺、フンパツして髪飾りとか
買ってあげちゃったんだぜ? ヒドくね?」
「そうだねぇ」
 ニコニコしながら国木田は相づちを打ってるが、ホントにひどいと思ってるのかはわからんな。
こいつの笑顔は、古泉とはまた違った意味で腹の底が読めん。
「いきなりみやげをねだるような女じゃ、付き合ったらサイフがわりにされるのがオチだろうよ」
「キョ〜ン。お前、夢ってもんがないのな。そんなんだから、あれだけ美少女ぞろいの中にいながら、
誰もモノにできないなんてことになるんだぜ?」
「はぁ?」
 ちょうどそのとき、ドアが開いて、ジュースと菓子皿の乗った盆を手にした妹が入ってきた。
お母さんから〜というのにサンキュと返して盆を受け取ると、妹は当たり前のようにそこに座り込んだ。
「ねぇねぇ、なんのお話してたの?」
「お前には関係ない話だよ」
「えー?」
 フォローのつもりか、国木田が口を挟んでくる。
「谷口がね、彼女にデートのおみやげを買ってあげたんだって」
「デートのおみやげ?」
 妹はきょとんとして、俺たちの顔を順に見ていたが、やがてぱっと顔を輝かせ、
ちょっと待っててねと言って階下に走って行った。

「なんだなんだ」
「さぁな」
 さっそく菓子皿の上のクッキーに手を出しながら、谷口はまた話を蒸し返そうとしてくる。
「しっかしキョン。お前、ホントにあのメンバー、口説いてみようとか思わないのかよ。
涼宮はともかく、長門有希あたりならいけるんじゃねえの? もったいない」
「うるさいな。余計なお世話だ」
 ジュースをがぶ飲みしつつ、目をそらす。
確かに口説いちゃいないが、口説かれたことならあるぞ、とは言えない。
しかもそれにほだされて、現在お付き合いまっただ中だ、とはさらに言えない。
……相手が相手だからな。
「確かにあの集まりは美形揃いだよね。4人とも、お付き合いするには申し分ない感じ」
「おいおい国木田〜。4人はねえだろ、4人は。いくら美形だって、男を数にいれんなって。カウント外だぜ」
「そう?」
 そこで国木田は、俺の方へ視線を向けた。
……なんだ、その意味ありげな笑顔は。

「見て見て〜!」
 国木田の笑顔にいたたまれなさを感じて身じろいだとき、妹が何かを抱えて戻って来た。
妹が目の前に広げたのは、ピンクの小さなポーチや安っぽいマニキュア、
アロマオイルの小袋やら旅行用のシャンプーとコンディショナーのセット、
タオル地のヘアバンド、などの小物類。
「へぇ。どうしたの、これ」
「キョンくんのおみやげ〜!」
 うっ。
「なんだなんだ〜? 百均ででも買ったのか? キョンにしちゃ、気の利いたみやげじゃねえか。
女の子が好きそうだよな」
 谷口が面白そうにのぞきこむのに、俺はただ笑ってるしかなかった。
ま、ますますいたたまれねえ……。
 これはマニキュアでねぇ、これがリップクリーム! とか、はしゃぎながら説明する妹に、
意外に付き合いよく谷口がうなずいている。
 すると、国木田がそっと肩のあたりを引っ張って、耳元に口を寄せてきた。
ふたりに聞こえない程度の声で、こそっと耳打ちする。
「キョン。気をつけなよ。アレ、わかる人にはわかるからね」
「な、なにがだ?」
 くすっと小さく笑って、国木田はにこやかに続けた。

「あれ、ラブホテルのアメニティだろう? 女性の身だしなみ用具が
必要ないのはわかるけど、妹へのおみやげにするのはどうかなぁ」

 何も言い返せず、真っ赤になって飛び退った俺を尻目に、国木田は
さっさとみやげを囲む妹と谷口の話の輪に入っていった。
 どこまで、っつか、なんで知ってんだ国木田よ。
 怖すぎるぞ、お前……。



                                                 END
(2010.04.11 up)
国木田伝説。