続・仲良きことは

     【お題】写真




 その日のお昼休み。
忘れ物を取りに部室に行ってみたら、めずらしく長門さんはいなくて、
代わりに古泉くんひとりだけが椅子に座ってなにかをしていました。

「こんにちわ、古泉くん」
「これは朝比奈さん。めずらしいですね。どうされたんですか?」
「えへへ。昨日ちょっと忘れ物しちゃって。古泉くんは何をしてるんですか?」

 そう聞きながら手元をのぞき込んでみたら、古泉くんは長机にひろげてたものを
見せてくれました。これは……写真、ですよね?

「はい。団長命令で、最近の活動で撮った写真の整理をしていたところですよ」
 ああ、SOS団の活動記録ってタイトルのアルバムに、貼ってあるやつですね。
この時代はまだ、プリントアウトしたものも多かったんですねぇ。
「あはは……朝比奈さんの時代では、そうではないということですね」
「あっ、やだ私ったら……!」
「まぁ、聞かなかったことにしておきますよ」
 古泉くんはいつもの笑顔を苦笑に変えて、そう言ってくれました。
「うううう……ごめんなさい〜。お茶淹れますねぇ」
「ありがとうございます」

 二人分のお茶を淹れてから、また手元をのぞきこんでみると、古泉くんは
とりあえずイベントごとに写真をわけているみたいでした。
あは、カラオケとか花火とか、なんだかもうなつかしいなぁ。

「デジカメのメモリに入ってたデータを、一応全部プリントアウトしたんですよ」
「へぇ……みんな楽しそうな顔ですよね。あ、これ」
「ああ、肝試しのときのですね。長門さんの幽霊姿は傑作でした」
「うふふ。でも、こうしてみると、キョンくんてあんまり笑った顔ってないですねぇ」

 どの写真でもキョンくんは、しかめっ面とか眠そうな顔とか怒ってる顔とか
ばっかりで、笑顔はほとんどありません。なんだか、キョンくんらしいけど。
「そうですねぇ……。決して、楽しんでないわけじゃないと思うんですけどね」
「私もそう思いますよ」
 古泉くんはキョンくんの写真を眺めながら、すごく優しい顔で微笑んでいます。
自分で気がついてるのかなぁ。キョンくんの写真を眺めてキョンくんのことを
しゃべってるとき、古泉くん、とっても幸せそうな顔してるんですよ?

「あれ?」
 今、重ねられた写真の下の方に、キョンくんの写真が……。
そっと引っ張り出してみたら、やっぱりそうでした。寝顔、ですね。
でもこれ、いつの写真だろう。覚えがないなぁ。
「ああ、すみません。それは団活ではなくて、プライベートで撮影したものですね。
彼が僕の部屋に遊びに来たとき、うたた寝しているのをつい悪戯心で」
「そうなんですか〜。なんだかキョンくんの寝顔、可愛いですね」
「ふふ。それ、あまり本人には言わない方がいいですよ」
「え、そうなんですか?」
 男には、それなりの矜持というものがあるんですよという古泉くんにうなずいて、
でもやっぱり可愛いなって思いながら、プライベートで撮ったっていう写真を
見せてもらいました。

 寝顔の写真は、けっこういっぱいありました。
こんなに何枚も撮って、目を覚まさないものなんですね。
 ……でも、あのぅ……この眠ってるキョンくん、ほとんどの写真で、
その……お洋服とか着てないように見えるんですけど……。
寝るときは何も着ない主義なんでしょうか……。でも確か、遊びに来て
うたた寝してるところを撮ったって言いましたよ……ね?
 おそるおそる古泉くんの方を見てみたら、古泉くんはにこにこしながら
こっちを見ています。その笑顔がちょっと怖い気がするのは、私の気のせい
なんでしょうかぁ……。

「あっ……」
「おっと、失礼」
 急に古泉くんが、1枚をさっと私の手から奪い去るみたいに持っていっちゃいました。
え、なんだったんだろ、今の……今の写真は……キョンくんが……。
わたわたとしてたら古泉くんは、その1枚を大事に持ったまま、うかがうような視線を
私の方に向けました。

「……見ました?」
「ひゃい! い、いいぇぇぇ、みみ見てませぇん!」

見てません! 見てませんよ?
真っ赤になってるキョンくんの泣き顔写真なんて、まったく見てないですぅ〜!

「そうですか」
 ひとつうなずいてから古泉くんは、にっこりと特上の笑顔になりました。
私に向けてぱちりと片眼を閉じてみせるその顔、やっぱりなんだか怖いです……っ。

「この1枚については、禁則事項、ということでお願いしますね?」

 
                                                 END
(2009.12.24 up)
古泉……君、一体何を撮って……。