こだわるところ

     【お題】ゲーセンの景品ストラップ




「あ、これ」
 いつもの帰り道……からちょっとはずれた商店街で、ハルヒがふいに足を止めた。
並んで歩いていた朝比奈さんと長門もつられたように立ち止まって、ハルヒが
見ているものを横からのぞきこむ。
「なんですか、涼宮さん」
 ゲーセンの店先に置いてあるカプセルトイの販売機の前だ。
ガチャなんとかってやつだな。
 後ろを歩いていた俺も、なんとなく3人の背後に立ち止まる。
ちなみに古泉は、アルバイトだと言い置いて先に帰った。ハルヒはそれほど
機嫌が悪いようには見えないから、機関の会議とかそんな用事なんだろう。

「どうしたハルヒ」
「これよこれ。どう思う? キョン」

 ハルヒが指し示したのは、ガチャの機器本体に張ってある、景品の携帯ストラップの
見本写真だった。朝比奈さんが身を乗り出して、何種類かあるストラップを見つめている。
「わぁ、このパンダちゃん可愛いです〜。このウサギちゃんも」
 可愛らしい朝比奈さんは、やはり可愛らしいものが好きなんですね。
大変お似合いです。
「それはあたしも可愛いと思うのよね。問題はこれよ。この犬だかクマだか
タヌキだかわかんないやつ。なんでこれだけこんな顔してんのかしら」

 ああ……それは俺も思ったぞ。
妹がパンダを欲しがったから何度かやったが、けっこうな確率で出てくるんだ、それ。
可愛らしい造形のほかのマスコットたちの中で、なぜかそれだけシュールというか
前衛的というか、ぶっちゃけあまり可愛くない。
 俺が持っていてもしょうがないので、申し訳ないが出てくるたびに捨てるか
誰かにやるかしちまってる。

「それがどうかしたのか?」
「古泉くんよ」
「はぁ?」

 ハルヒはアヒルみたいに口をとがらせ、腕を組んで販売機をにらんでいる。
なんのことだと問いただそうとしたら、今まで黙っていた長門が言葉を発した。

「知っている。古泉一樹の携帯電話に、そのマスコットがついている」

 これがか。
「そう」
 こくり、とうなずく長門の言葉にかぶせるように、ハルヒが不満げな声をあげた。
「可愛くないから替えなさいよっていったんだけど、気に入ってるんですって。
趣味悪いわよね!」
 古泉くんには似合わないと思うの、大体ゲームの景品にしたってチープすぎるわ、と
ハルヒはやけにこだわっている。
「別にいいだろ? 古泉が携帯に何つけてようが」
「それはそうなんだけど……なんかイメージじゃないのよね。たとえばみくるちゃんが
煙草持ってるみたいな? そんなチグハグ感があるのよ」

 まぁいいけどね、と言って、ハルヒは当初の目的だったドーナツ屋へと足を向ける。
俺はやれやれと肩をすくめてそのあとを追おうとしたが、制服の裾を引っ張られて
振り返った。なんだ、長門。

「……古泉一樹の今日の主要業務は、説教と始末書」
「はぁ?」
「涼宮ハルヒの意向に添わなかったため」
「……」

 もしかして、今のストラップの話か。
「そう」
 替えろと言われて、反発したから?
「そう」
 馬鹿かあいつは。なんでそんなどうでもいいことにこだわってんだ。
まぁ……思い当たる理由が、あるにはあるんだが。
「涼宮ハルヒのこだわりと同じ理由」
 なんだって?
「……ハルヒは、知らないはずだぞ」
「女の勘」

 それだけ言って、長門は俺の側を離れてハルヒたちの方へと歩いていった。
勘だと? まったく、どいつもこいつも……。
「おい、ハルヒ」
「何よ」
「どんなストラップなら、古泉に似合うと思うんだ?」
「え? そうね……シルバーのカッコイイやつとか?」
 シルバーだと。高そうだな。メッキでもいいのか?
「別にいいんじゃない? それがどうかしたの?」
「いや。なんとなくだ」
 ふーん、と面白くもなさそうな顔で答え、ハルヒは目前まで来ていたドーナツ屋に
飛び込んで行った。俺はじっとこちらを見ている長門に肩をすくめてみせる。

 しょうがない。まったくもってしょうがない。
しょうがないから今度、ハルヒの持ってるイメージにあうようなストラップを買ってやる。
だから、その……機関の上司に怒られてまで、俺がきまぐれでお前にやったチープな
景品ストラップにこだわるのはやめろよな。……バカ古泉が。
 
                                                 END
(2009.12.24 up)
ハルヒは古泉のストラップがキョンからのもらいものだと、はっきり知ってはいないけど
なんとなくあやしいなと思ってるような……わかりにくくてすいません。