涼宮ハルヒの疑惑

【お題】『好き』の言葉に過剰反応

 どーもあやしいのよね、最近。

何がって、古泉くんよ、古泉くん。
前からいつでもニコニコしてて、嫌な顔とか怒った顔とか見たことないけど、
最近は特にうかれてるっていうか……なんか、やけに幸せそうなのよ。

 まぁ、それはいいことなんだけど、やっぱり気になるじゃない?
一体、何があったのかしら?

「さぁな。宝くじでも当たったんじゃないか」
「真面目に考えなさいよキョン! SOS団の仲間のことなのよっ!」
「俺には、いつもとかわらんように見えるがね」
 そりゃあ、キョンみたいなニブチンにはわからないでしょうね!

 やっぱり年頃の男子がうかれる原因っていったら、恋愛関係かしら。
彼女でもできたのかも! これは調査が必要ね!
 あ、もちろんそうだとしても邪魔なんてしないわよ? あたしは恋愛なんて
精神病の一種だとは思ってるけど、人の恋愛観にまでは口出さないわ。
古泉くんなら、大いに応援しちゃう!

 そう思って、しばらく古泉くんをこっそり物陰から見守ったり、帰り道に
解散してから後をつけたりしたんだけど……変わった様子はないわね。
女の子と会ってる様子もないし……。

 っていうか、古泉くんと一番長い時間一緒にいるのって、キョンなのよ。
団活の時にずっと二人でゲームしてるのは知ってるけど、その他のときにも
休み時間に中庭でお茶してたり、帰り道にコンビニ寄ったり、そのままキョンが
古泉くんの家に遊びにいっちゃったり。
 ほんっとに仲いいわね、あの二人。
 俺たち親友だよな! みたいな熱い友情ってわけじゃなくて、キョンなんか
どっちかっていうとそっけない態度だったり、いかにもうっとおしそうな
顔してたりなことが多いんだけど、それにしちゃいっつも一緒なのよねぇ。
男の子の友情って、そういうものなのかしら?
まぁ仲良しなのはいいことなんだけど、これじゃ彼女作ってるヒマなんてないじゃない。
 むしろ、こうも四六時中一緒にいるって、まるでこの二人が付きあってるみた……。

 ま、まさかね……?
そんなわけ、ないわよね? ……えっと、確かめるべき?
 そういえば、今日はみくるちゃんが用事があるから団活休むって言ってたわね。
有希もコンピ研の方に顔を出すって言ってたし……あたしが遅れていけば、
しばらく二人っきりにさせられるわね。

「キョン! あたし今日は団活遅れるわ。はずせない用事があるの」
「ん、そうか。わかった」
「あとみくるちゃんも有希もお休みよ。あたしが行くまで古泉くんと
留守番してるのよ、いいわね!」
「わかったわかった」

 さて、どうなるかしら。……さすがに、あたしの考えすぎだとは思うけど……・
足音を殺してそっと部室の前に……おっと、かがまないとガラスに影が映っちゃうわね。
息をつめてドアに耳をあててみる。うん。何かしゃべってるのが聞こえるわ。
何を話してんのかしら……。


「……好きですよ」


 ええええええええっ! いきなりビンゴ!? 告白!? 古泉くんが、キョンに!?
キョンの返事は? ど、どうなの?

「知ってる。俺も好きだ」

 う、うそっ……。両思い……?

「ときどき、どうしても欲しくてたまらなくなることもありますよ」
「ああ……我慢できなくなるな」
「ふふっ。ほどほどにしないといけないっていうのは、わかってるんですが」
「まぁ、俺たちの歳じゃしかたないんじゃないか」

 しかもなんか、ふ、深い仲っぽい……?
 そんな……キョンと古泉くんが……。

「あ、あんたたち……っ!」
 思わずドアを蹴り開けて乱入してしまった。
「おや、涼宮さん。こんにちわ」
「ハルヒ……ドアを蹴り開けるのはやめなさい。壊れるぞ」
 あたしの乱入にあせるかと思った二人は、いつも通りの態度でのほほんと
オセロなんかしてる。聞かれてないと思ってるのかしら。
 知らなかったわ。まさか二人がそんな仲だったなんて……!

「あれ? バイトが入りましたね」
 古泉くんが携帯に来たメールを見て不思議そうな顔をした。
 そんなこと、今はどうでもいいっていうのに、キョンまでが顔をしかめてあたしを見る。
「ハルヒ、どうかしたのか?」
「だってあんたたち……今、好きって言いあって……」
 そうしたら二人は、ますます変な顔をした。

「ああ、蓬莱の豚まん。食ったことあるか?」
「おいしいですよね、あれ。ときどき無性に欲しくなります」
「ほどほどにしないと太りそうなんだけどな」

 ……あれ?
 豚まん? の、ことだった……の?

「ハルヒ?」
「え、あ、あははっ! そうね、おいしいわよね、あれ! あー、なんか思い出したら
すごく食べたくなっちゃった」
 な、なんかめっちゃ恥ずかしい! いますぐここを立ち去りたい気分!
「買いに行ってくるわ。今日はこれで解散!」
「おい今からか! ちょ、ハルヒ!」
 呼び止めるキョンの声も今は無視。
 ああもう、あたしのバカバカー!

* * * 

「なんなんだ、ハルヒのやつ……あ、古泉。閉鎖空間は」
「それが、いきなり消滅したそうです」
「はぁ? よくわからんな……」
「まぁ、涼宮さんの憂いがなくなったのは喜ぶべきことかと。――ところで、
バイトもないことですし、今日も僕の部屋にいらっしゃいませんか?」
「……いいが、今日こそは泊まらないからな」
                                                 END
(2009.10.27 up)
うん。こういう意味のお題じゃないってことはわかってる(笑)
でも「恋に気づいた」(ハルヒが)にはなってるな。