相似形

【お題】こっそりお揃いのものを買った

「おや、ずいぶん可愛らしいものを使ってらっしゃいますね」
「ん?」

 掃除当番のために少し遅れて部室に入ると、彼がいつもの席でノートを広げ、
熱心になにやら綴っていた。どうやら宿題らしく、英語の教科書に載っている
例文を書き写しているようだ。
 そのとき彼が使っていたシャープペンには、ノック部分に可愛らしいクマの
マスコットがついていた。似合っていないこともないが、彼の趣味とは思えない。

「そのシャープペンです」
「ああ……コレか」
「あなたの持ち物なんですか?」
「まぁな。妹がくれたんだ」

 聞けば、彼の妹さんのお気に入りキャラクターなのだそうだ。
何を思ったかいきなり、キョンくんあげる〜と言って渡され、
断る理由もないので貰ったのだという。
 それでも、きちんと使ってあげるあたりが彼らしい。

「そうですか。妹さんの」
「俺に似てるんだと。……似てるか?」

 そう言って彼は、シャープペンを僕の目の前に突きだした。
小さな茶色のクマはマスコットにしては渋い造形で、なぜか眉毛があって
それが怒ったような形にしかめられている。
 ああ、確かに似ているかもしれない。造形がというより、その表情が。
そう思ったとたんに、僕はつい吹き出してしまった。

「なんだよ」
 そう言って顔をしかめるとますます似ている。つい笑いが止まらなくなってしまった。
「失礼なやつだな、お前はっ」
「す、すいません……あははっ」

 しばし憮然としたあと、彼はやれやれとつぶやいてシャープペンをくるりと回した。
「まぁ、いいか。レアなモンがみれたしな」
「は?」
 クマのマスコットが、再び目の前に突きだされた。ニヤリと彼の唇があがる。

「爆笑する古泉なんてレア物だろ。ああ、写メでもとっときゃよかったか」



 そんな一幕をコンビニの棚の前で思い出したのは、
そこに同じクマのマスコット付きのシャープペンを見たからだった。

 彼はあれからもたびたびあのシャープペンを使い、涼宮さんや朝比奈さんに
僕と同じ反応をもらってさらに憮然としていた。
 が、そのことを嫌がっているわけではないのは、よくわかる。
時折それをくるくると回しながら眺めている様は、表情がゆるんでいて微笑ましかった。

 購入予定だった缶コーヒーや雑誌と一緒に、
僕はそのシャープペンを持ってレジへと向かった。


                                                    END



オマケ

「なんだよ、ハルヒ。そのシャーペン、俺と同じヤツじゃねえか」
「べ、別にっ。これしかなかったから、仕方なく買ったのよ!」
「そうかよ……って、朝比奈さんもなんで持ってるんですか?」
「えーと、き、禁則事項ですぅ〜」
「まさかとは思うが長門……」
「持っている。近所の文具店で購入した」
「みんなして面白がりやがって……おい、古泉。何さりげなく筆箱隠そうとしてんだ」


(2009.10.27 up)

キョンハーレム(笑)