PRAY

【お題】恋だけじゃない、だから厄介
――恋、だけじゃない。
だから厄介。
向けられた方はきっと、迷惑極まりない。


 寝入りばなにいきなり感じた、独特のこの感覚。
ああ、今夜も彼女は悪い夢を見ている。
閉鎖空間の発生は、ここから数キロ先の公園の北側。進入経路は花壇の端。
いつものように頭の中に浮かぶイメージをまとめると、すぐに携帯に連絡が入った。
思った通りの場所への出動命令だ。
僕は3分で服を着替えて、さっさと部屋をあとにした。

 灰色の闇の中で、身もだえるように暴れる青い神人。
僕たちは赤いフレアに身を包み、神人の青い身体を刻むように飛び回る。
神人の腕が至近距離をかすめていく。
頭上から瓦礫が降る。
今日の神人はなかなかに手強い。

「お疲れ様、古泉」
「はい。森さんも」
「明日も学校でしょう? 少しでも休みなさいね」
「了解です」
 結局、部屋に戻ったのは明け方で、半端に眠るよりはこのまま起きていた方が
いい時間だと判断した。20分の仮眠をとってシャワーを浴びてから、僕は
朝食代わりのゼリー飲料を持ってバルコニーに出た。
 睡眠の足りない頭は妙な具合に冴え、朝の光は目に痛い。
 ああ、疲れた……。

 彼の家は、この方向だ。
僕はそちらに顔を向け、ゼリー飲料と一緒に持ってきた携帯を開く。
そして、ロックをかけて保護してある、一通のメールを呼び出した。
文面は、そっけないほんの一文。

『お疲れさん。明日また学校でな』

 差出人は、彼。受信したのは1ヶ月ほど前だ。
みんなで出かけた先で、いつものように彼女に振り回された僕たち。
苦笑いで帰宅したあとにちょっとした連絡をしたその返事で、彼にとっては
友人に向けたさしたる意味もない社交辞令。業務連絡にも近いものだろう。

 だけどこれは、僕にとってはお守りだ。
僕の、命と、心と、存在意義と、戦う意味と。あらゆるものを支えてくれている。
彼からもらった、こんな一言二言が。
 僕は携帯に口づけて、捧げ持つようにそれを額にあてた。


 恋、だけとは、もはや言い難い。
この想いは、信仰に似ている。
厄介な感情だ。
向けられた方は、きっと迷惑極まりない。

 でも、ごめんなさい。
この想いにすがらなければ、僕はきっと生きていられない。
だから許して下さい。想うことだけは。
あなたには決して、悟られないようにしますから。

 お願いします。
 ――好きで、いさせてください。

                                                  END
(2009.10.21 up)

片想い。