Call my name
04
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 気になり始めると、どうにも止まらなかったのだ。
 オンオフのはっきりしている彼は、いくら昔の仲閧ナあっても涼宮さんには仕事中はきちんと敬語で対応する。涼宮さん的にはそれは大いに不満なようなのだが、彼女がどう言っても、彼がその姿勢を崩すことはない。
 が、勤務を終えたあとのプライベートな時間や周囲に他の目がないときには、昔のままの調子でしゃべっているらしいことを先日知った。たまたま休憩シフトが重なったらしいふたりが、喫茶室で話しているところに遭遇したからだ。
 そこでふたりに話しかけてみれば、彼は普通に話してくれるかもしれないと一瞬思って、僕はいったんは足を止めた。が、結局彼らに気付かれる前に、その場を立ち去ってしまう。学生時代の仲閧スちとの、仕事を離れた場所での気楽な団欒。そんな場でもしも彼が、僕だけに硬い口調を向け続けたら……。そう思った瞬間に、なぜか足はそそくさと出口の方へと向いていたのだ。
 もちろんそれが、彼のささやかな反抗であることはわかっている。彼の信頼を裏切った僕への、精一杯の意趣返し。たぶん僕がこんなに気にしているとは思っておらず、だからこそ頑なに僕との間に壁を作って距離を取っている。最初は別にそれでかまわないと思っていたけれど、続くうちにだんだん腹が立ってきた。自分のしたことを棚に上げているのは充分承知しているが、仮にもパートナーなのに、あまりに大人げないじゃないか?
 そして先日のことだ。
 涼宮さんに呼び止められ、とうとう「キョンと喧嘩でもしてるの?」と聞かれてしまった。なんということだ、と僕は思った。これでは僕と彼との関係を、涼宮さんに勘ぐられてしまう。ばれることはもちろん、不審をもたれることすら避けなければならないのに。絶対に。
 何故ですかと問う僕に、涼宮さんは「なんだかふたりの態度がよそよそしい感じがするのよね」と言った。
「キョンに聞いたら、古泉は上官なんだからあんまり馴れ馴れしくできるわけないだろって言ってたけど、ホントにそれだけなの?」
 僕はいつもの微笑みにほんの少しの憂いを混ぜ、首を傾げてみせた。
「別に喧嘩をしているわけでは……。ですが、彼の赴任以来、僕も彼も忙しくて、ほとんど話が出来ていないのは確かです。そのあたりがぎこちなさを生んでいるのかもしれませんね」
 そこで僕はなおも心配そうな顔をする彼女に、彼と同時の休暇を申請してみたのだ。男同士、一晩飲み明かして腹を割って話せば、また昔のように気さくな関係に戻れるかもしれないですしと言う僕の提案に、涼宮さんは難しい顔で考え込む。
 やがて彼女は顔を上げ、わかったわ調整してみると請け負ってくれたのだった。



「そういうわけで、本日のこのときが実現したわけなのですよ」
 両手を広げてそう説明した僕に、彼はさっきからじっとするどい視線を向けている。
「閣下のご厚意でいただいた、せっかくのそろっての休暇です。楽しみましょう?」
「……自分のこの状態で、何かを楽しめるとは到底思えませんが」
 彼が身じろぐと、キシッと椅子が軋む音がした。同時にガチャガチャと鳴ったのは、おそらく彼の腕を後ろ手に、背もたれに括り付ける形で拘束している手錠だろう。足は膝を曲げて開脚した状態で、足首を両方の肘掛けに器具で固定してある。確かに、かなり屈辱的な姿勢ではあるなと思い、僕はくすっと笑みをもらした。
「そうですか? あなた、こういうの好きじゃありませんでしたっけ」
「な……」
「初めての時、拘束されて無理やりやられて、すごく気持ちよさそうでしたよ?」
 彼は一瞬激昂しかけ、すぐにぐっと声を飲み込んだ。顔を背け、僕の視線から逃れようとするように、椅子の上でもぞもぞと身動く。
「一体、なんのつもりで……」
 今度こそ僕は、吹き出してしまった。なんのつもりって、そんな。
「そんなことは、そろって休暇を取ることになった時からわかってるでしょうに」
「…………」
 今朝、600時に私室に来るよう告げてあった彼は、ちゃんと5分前に僕の私室に現れた。制服だったので私服に着替えさせ、本部を出て通りでオート制御のタクシーを拾い、郊外にほど近いこの建物に連れて来た。総務の方にも、郊外のリゾート地区に遊びに行くと申請してあるから、まぁ嘘はついていない。
 別に怪しい場所ではない。ただのレンタルスペースだ。地下にあるのは防音を考えてあるからで、内緒の会議や楽器の練習、スポーツや肉体の鍛練などに向いている。殺風景なのは用途に合わせて設備を持ち込む仕様になっているからで、今回の僕らには椅子と簡易ベッド以外の設備が必要ないから持ち込んでないというだけだ。一応隣室に、トイレとシャワーブースは設置されている。
「まぁ、ホテルの部屋も考えたんですけどね。この方が感じが出るでしょう?」
「だから……なんの、ですか」
「あれ、わかりません? この手の訓練は受けてないですか? ――監禁され、拷問を受けた際のシミュレーションですが」
 彼の眉間に皺が寄る。そしてぼそぼそと、ひと通りは受けておりますけれどと答えるので、僕はまぁそうですねとうなずいた。それほど大げさなことはしないが、一応必須の訓練項目になっているのだから、当然だろう。
「あなた、痛みにはけっこう強いみたいですね。無駄なプライドもないようですし、軍人としてはなかなか優秀です。でも……」
 こちらを睨みつける彼に一歩近づき、頬をするりと撫でた。
「快楽には、意外と弱そうですよね?」
 彼が小さな声で何かを呟いた。聞こえなかったが、吐き捨てるような口調だったからおそらくは、僕に対する罵倒の類だろう。僕は手を伸ばし、まずは彼が着ているシャツをボタンごと引きちぎって胸をはだけさせた。
「ちょ……いきなり……っ」
「ゆっくり楽しみたいのは山々なのですが、休みは1日しかありませんし。訓練だと思って、頑張ってくださいね」
 開脚した状態で固定され、無防備にさらけだされている彼の急所をするりと撫でる。ベルトをはずし、ジッパーを引き下ろして解放すると、やはりすでに少し反応を見せていた。
「やっぱり、あなたこういうのが感じるんですか。……いいご趣味ですね」
 彼の頬がサッと紅潮したのがわかる。どうやら、こうして言葉で辱められるのもイイらしい。まだ自分で認めることはできないようだが。
「……性的拷問は、条例で禁止されているはずですが」
 出来うる限りに平静を装って、彼がそう言った。僕は彼のそれをじっくりと眺め、確認するように触れつつ肩をすくめる。
「さて、地方惑星の自警隊を名乗る輩や宇宙海賊たちが、遵法精神に満ちあふれた方々ばかりならいいですけどねぇ……ああ、もう完全に勃ちましたね」
 あとで弁償いたしますからと断って、僕はナイフを取り出し彼の履いてるパンツと下着を切り裂いた。僕が彼を傷つける気はないとわかっていても、急所近くで翻りときおり肌をかすめる刃物の感触は恐怖をあおるものなのだろう。彼は硬い表情で身動きせず、じっと僕の動きをみつめていた。悪戯心を起こしてそのまま刃先で性器を撫でると、さすがにひっと息を飲んで、椅子の上で後退る。僕はくすくすと含み笑いつつ、冗談ですよとナイフを引っ込めた。
「さぁ、何から試しましょう。道具もひととおりご用意しましたが、ご興味のあるものは何かありますか?」
 手元に引き寄せたストレッチャーの上に並べた器具を、示してみせる。彼が使い方を理解しているかはわからないが、そのもののグロテスクな形の器具もあるので、なんとなく想像はつくのだろう。彼は青ざめた顔で首を振った。
「拷問で……自分に、何を吐かせようと言うんですか」
「言ったでしょう? 以前のように、僕を呼び捨ててください」
「それなら、俺は」
 今すぐにでも、と言おうとする口にナイフを突きつけ黙らせる。
「これは訓練だと思えと、言ったでしょう? 簡単に陥落されては困ります。ちゃんと抵抗してくれないと。……それにあなた、要請に従うのは今だけですよね。本部に帰ったら、またあの頑なな態度に戻るおつもりでしょう」
 図星だ、という顔を見て、つい笑ってしまう。彼は、彼が自分で思っているほど表情に乏しくはない。確かに喜怒哀楽がすぐに顔に出る涼宮さんや朝比奈さんとは違うが、内面はわりと簡単に顔や態度ににじみ出る。彼と親しくつきあっている人間になら、それは顕著に感じ取れるはずだ。
「だから、ごっこなんですよこれは。言わばプレイの一環です。なので、あなたが本心から僕を呼び捨てることに同意したと僕が納得しなければ、終わらないわけです」
 ストレッチャーの上から、適当に器具を取り上げる。やはり見た目のインパクトは大事だろうと、黒々とした男性器を象ったものを選び、スイッチをオンオフして動きを確かめた。モーター音とうねるようなその動きを目にした彼の顔に、はっきりと恐怖の色が浮かぶ。
「軽々しく従うのは、言葉を安く見せるだけですよ。よく考えてくださいね」
「やめ……っ、ぐ……っ!」
 恐怖に引きつる顔の顎を押さえ、口の中に無理やり器具を突っ込んだ。えづくのにかまわず口の中を掻き回し、唾液にまみれさせたそれを引き抜いて、さらけだされている彼の後孔にあてがう。やめろと暴れる腰を押さえて、強引にじりじりとねじこんだ。
「や……むり、です……っ! 痛っ……」
「大丈夫ですよ、ほら」
 すでにすっかり開発されている彼のそこは、慣らさなくてもわりと順調に、器具を飲み込んでいく。汗まみれで苦しげにうめく彼は無意識にか、腰を少し浮かせて下腹に微妙に力を入れるという、挿入されるのに楽な姿勢をとっていた。
「ほら、入っちゃった」
「…………っ」
 目に涙を浮かべ、彼ははふはふと息を付いている。が、やはり彼は僕に何度もされているうちに、このくらいなら難なく受け入れられる身体になってしまったようだ。これでは拷問にならないなと思いながら、僕はモーターのスイッチを入れた。
「っひ、あ、だっ……!」
 思わずあげかけた声を、彼はあわてて飲み込んで唇を噛んだ。かまわず中で器具を動かしていると、やがてそれが前立腺にあたったらしい。椅子の上で彼の身体がビクビクと小刻みに震え、しきりに身悶える。完全に勃っている彼の性器は、すでに先端からだらだらと透明な液をこぼしていた。
 聞いたときは苦しいだけだなどと言っていたが、思った通りあれは嘘だったようだ。
 入れるときこそ痛がっていたが、彼の身体はすぐにそれらを快感にシフトすることに成功しているらしい。目をきつく閉じ、ただ快楽だけを追うようにしている彼を眺め、ああそうかと思った。
 なるほど。彼はいつもこうやって物理的な快感のみに集中して気をそらし、嫌な上司から強要される性行為に耐えているわけか。意図してやっているのか無意識なのかはわからないが、彼はそれを快楽とは認めずにただ苦しいだけと言い張っているのだ。
 そう納得したらなぜか急に腹が立ってきて、僕は器具をつかんで乱暴にそこから引き抜いた。
「ひっ! あ……なん、で」
「なんで、じゃありません。あなたを気持ちよくさせるためにやってるわけじゃないんですよ、今日は」
 快感の余韻が残っているのか、彼がボンヤリとした顔で僕を見る。彼の口元の涎を手で拭い、彼自身のシャツで拭いて、まったくと溜息をつく。
「先日、感想を聞いたときには苦しいだけだとかおっしゃってましたが、とんでもないじゃないですか。こんなものをお尻に突っ込まれて、あっという間にコレでは」
 彼が、はっとしたような顔をして唇を噛む。どうやら自覚はあるようだ。自分の身体が、すでにそういうものになっていることに。
「本当にあなたは、被虐趣味の淫乱ですね、これじゃ本当に性的拷問を受けても、敵に可愛がられたらあっという間に従順な子猫ちゃんになりそうだ」
「ち、が……っ」
「違うというなら、もうちょっと我慢してください」
 まぁ、相手が僕だからだというのはわかっている。本当に殺されるわけがないも、明日になれば解放されるのも保証されているのでは、従順に快楽に流されておく方が無難だと彼の脳は計算したのだろう。本気で抵抗しろと言うのも、無理な話だ。
「しかたないですねぇ……」
 痛みや死の恐怖で脅すことができないなら、方法はあとひとつしかない。僕は手にしていたディルドをストレッチャーの上に戻し、並んでいた中から比較的小さなものを手に取る。コードがつながったカプセル状のそれを、彼の後孔にずぶりと埋め込んだ。そのあたりはすでに彼の分泌した先走りでびしゃびしゃだから、簡単に中に入ってしまった。
「んっ、んぅ……っ!」
 指ごと中に突っ込んで、それが前立腺に当たるように調節する。スイッチをオンにするとカプセル状のそれは微細に振動し、彼の前立腺を弱く刺激しはじめた。
「ちょ……これは……」
「ローターですよ。振動は最弱にしてありますから、たいしたことないでしょう?」
 微妙な刺激がもどかしいのか、彼はしきりに身悶えはじめた。固定された椅子の上で、なんとか感覚を逃がそうともじもじと腰を動かしているが、それはかえってローターをいい場所に押しつけることになってしまったようだ。
「そうちょ……これ、止めて、くださ……っ」
「何言ってるんですか。拷問する相手にそんなこと言っても、無駄に決まっているでしょう?」
 彼がぐっと唇を噛む。理不尽な、と思っているのだろう。
「これは訓練ですから。できるだけ、耐えて見せてください。苦しいだけ、気持ちよくなんてないというのなら余裕でしょう?」
 くそ、と彼は呟いて、また位置を何とかしようと身をよじらせた。必死なその姿に笑みをもらし、僕はまた別の器具をとって彼に近づく。もちろん、ローターだけですませるつもりなんかない。手にした、細い金属のスティックに見えるだろうそれを彼の目の前に掲げて、これ何だと思いますかと聞いてみた。ひっきりなしに送り込まれる微弱な刺激に耐えつつ彼はしばらく考えていたが、やがてわからないと首を振った。
「使ってみましょう。よく見ていてくださいね」
 先端に破損がないか確認し、それを持って椅子の前に膝をつく。勃起したままの彼の性器をつかんでスティックを先端にあてがうと、金属の感触が冷たかったのか彼がビクッと身体を震わせ、声にならない悲鳴を上げた。
「ま……さか……それ」
「大丈夫です。専用の道具ですし、ちゃんと消毒してありますので」
「そういう問題じゃ……」
 痛いと思いますけど我慢してくださいねと言うと、彼は激しく首を振った。
「むりだ……っ! ぜったい、はいらな」
「入りますよ。穴があるんだから」
 先端の溝のあたりをスティックの先でなぞり、大胆に動かして穴をさぐる。彼はカタカタと身体を震わせながら、目を離せないのか僕の手元を凝視していた。これからされることへの恐怖に青ざめ、戦く彼の姿にとても興奮を感じる。我ながら悪趣味だと思いつつも、僕はわざと見せつけるように、発見した尿道の入り口でスティックをぐりぐりと動かした。それが刺激になったのか、そこからさらにこぷりと体液がにじみ出る。
「ローションか何か必要かと思いましたが、これだけ濡れてれば平気ですね」
「や、やめ、ろ……やめてくれ……っ」
「忘れないでくださいよ。拷問ですから、これ」
 ズズッっとやや強引に、押し開いた尿道にスティックを押し込んだ。一気に半分ほどを突っ込むと、彼の喉から鋭い悲鳴がほとばしる。
「痛っ、ぁ、ひ、いぁああ!」
「暴れないで。危ないですから」
 そう忠告すると、拘束された椅子の上で後ずさろうとしていた彼が動きを止める。痛いのだろうが、あらぬところにあらぬものが突き刺さっている光景が怖くて動けないのだろう。慣らすように小刻みに出し入れを繰り返しつつ、ゆっくりと奥へと飲み込まれていくものを見つめ、彼は恐怖に身をすくめている。
「ひっ……あ……あ……」
「あなた淫乱だから、すぐ気持ちよくなって出しちゃうでしょう? こうやって塞いでおかなければね」
 さすがに反論する余裕もなく息を詰める彼の目の前で、器具はほぼすべてが、彼の性器の中に埋まってしまった。先端から顔をのぞかせている部分を指ではじきながら、どうですかと聞いてみる。
 と、青ざめていた彼の顔に少し赤みがさしているを見て、おや、と思う。震える唇を開き、彼は上擦った声で答えた。
「いっ、いたい、に、決まって……」
「へぇ? それにしては萎えてませんね?」
 ガチガチの状態の性器を、支えていた方の手でするりと撫で上げる。彼は、ふぁ、と声をもらし、あわてて口を噤んだ。痛いのは本当だろうがそれだけではなく、どうやらかなり気持ちいいらしい。
「本当にあなたって人は」
 こんなことでも感じちゃうんですかと呆れた口調で吐き捨て、僕はスティックののぞいている部分をつまんだ。
「まったく、どうしようもない淫乱だ」
 奥まで差し込んでいたそれを、抜ける直前まで一気に引き抜く。途端に彼は、ひあ、とかひゅあ、みたいな聞いたこともない声をあげて、激しく手足を突っ張り身体をのけぞらせた。彼を拘束している器具が、がちゃんと大きな音をたてる。
「…………っは、っ……ぁ」
 よっぽどの快感なのだろうか。彼はそれきり声も出せず、息すらろくに出来ずにひくひくと下腹を波打たせている。開いたままの唇の端から、飲み込むことの出来ないらしい唾液が垂れていた。
 彼の様子があんまり気持ちよさそうなので、僕は再びスティックを中程まで差し込んでやった。そのまま中で棒を揺らしたりくるくる回したり、小刻みに抜き差しを繰り返す。そうしてやると彼は、ひっきりなしに喘ぎ声をあげ続け、唾液もだだ漏れのままびくびくと身悶える。すでに声を殺すことも、体裁を取り繕う余裕もないらしかった。
「いあ、ああああ! やめ、やめ……っ! っひいっ!」
「ふふ。いい声ですねぇ」
 いつもの彼は、シーツを噛んだり両手で口を塞いだりまでして、なるべく声を出さないように頑張っている。だからこれほどあられもない声を聞いたのは、初めてのとき以来かもしれない。
 先走りなのか精液なのかはわからないが、分泌された液体のせいで、さらにすべりがよくなり動かしやすくなった。そのたびにちゅぷちゃぷと音がたつのが面白くて、スティックを深く奥へと差し込み、少し乱暴にギリギリまで引き抜くのを繰り返す。動きに合わせるように、彼の口からは苦しさと気持ちよさがないまぜになったような声が上がった。
「あー……っ、あ、んぅ、あ、はっ、ああ」
「ゆっくりするより、乱暴にする方がいいみたいですね?」
 そう聞いてみても、反応はない。あまりに感じすぎて、聞こえていないらしい。彼は腰をガクガクと揺らし、しきりにいく、出ると言うのだが、尿道がスティックでふさがれているので射精は物理的にできない。結果、彼は行き場のない熱を身体の奥に抱えたまま、身も世もない鳴き声を上げ続けることになる。
 痛みも死の恐怖も脅しの役に立たないなら、あとは快楽地獄に引き込むしかないだろう。この状態を長く続けると、人の精神はわりと簡単に壊れてしまう。人が性的興奮を感じるとき、脳内で自ら生成する脳内麻薬には依存性があり、普通の麻薬と同様に精神を破壊することもあるのだ。
「もう、いや、だ、いく、いきたい、あたまおかしくな……っ……」
 いきたい、抜いて、と譫言のように繰り返す彼を見ながら、そろそろ限界だな、と思う。彼を壊すわけにはいかないし、何よりむしろ僕の方がそろそろやばい。彼の痴態に煽られて、さっきから股間がかなりキツイのだ。たまらない。一刻も早く、彼の中に突っ込んで思うさま突き上げて、中にたっぷりと注ぎ込みたい。
 グイとスティックを尿道の奥にねじ込んだ状態で手を離し、興奮に震える手で前をつくろげ、自分のモノを取り出した。このままでは角度が悪いので、彼の足を拘束していた器具をはずしてやる。両脚をつかんで割り広げ、いざ突っ込もうと思ったときに、はたと気がついた。そういえば彼のそこには、ローターを入れたままにしてあったのだ。
 それを抜こうかと一瞬思い、考え直してその状態のまま挿入してみた。ついでに、最弱にしてあった振動の目盛りを一気に最大にする。押し込まれた彼のいちばん奥でローターが大きく振動を開始し、途端に彼の身体がびくんと跳ねた。
「ああああ、あひ、あッ、あぅ、あ、あああ――っ!!」
 ガクガクと、彼の身体が激しく痙攣した。息も絶え絶えにいくと叫んだ彼は、その宣言通り大きく背をしならせ絶頂する。が、それでもスティックで尿道を塞がれ射精できないせいで、身体の内にたまった熱は解放されないようだ。泣きながらひくんひくんと痙攣を繰り返す彼の片足を支えて激しく突き上げつつ、尿道に刺さったスティックも抜き差してやる。
 前立腺を僕のもので突かれ、尿道を責められ、さらに最奥をローターで刺激される彼は、可哀想なくらいに感じまくって、すでに理性は飛んでしまっている。
「はひ、ひ……っ、も、もう、や、ぁ……っ」
「降参、しますか……?」
 何を聞かれているか、たぶんもう彼はよくわかっていないだろう。反射的にか、こくこくとうなずくのを確認し、僕はひときわ深く彼の中へとねじこんだ。振動するローターが、彼の最奥に当たっているのが僕にも伝わる。すでに叫ぶ気力も体力もなく、涙も涎も何もかも垂れ流しで、ぐったりと突かれるままになっている彼の耳元に顔を寄せ、僕はことさら甘い声で囁いた。
「では、呼びなさい。古泉、って――」
 こ、いずみ、と、熱に浮かされたような声で彼が呼ぶ。僕はそれを聞いて満足し、よく出来ましたと微笑んで、彼の尿道からスティックを引き抜いてやった。途端にびくんと震えた彼の中から、たまっていたらしい精液が、勢いなくどろりとあふれ出す。
「うぁ、あ、ああ……いく……いって、る……と、とまらな……」
 糸を引くように長引く絶頂が、彼を襲っているらしい。まだいってる、死ぬ、と呟く彼にきゅうきゅうと締め付けられ、僕ももう限界だった。
「そろそろ……出します……っ」
 中に出す瞬間、絶望に染まる彼の顔を見るのが好きだ。
 僕は彼にこちらを見るように言い、ついでにもう一度古泉と呼べと命令した。彼は悦楽と絶望がないまぜになったような顔を向け、苦しそうな息の下から古泉と呼んだ。
 そして僕は見た。とっくに理性を手放したはずの彼の瞳に、暗い輝きが宿るのを。その瞳が真下から僕を射貫き、彼は低い唸り声を発した。

「――いつか絶対、殺してやる……!」

 本気の殺意が籠もった視線にさらされた途端、ぞくっと背筋に電流に似たものが走る。瞬間、たまらず射精した。恐ろしいほどの快感が押し寄せ、気持ちよさのあまり目眩がする。こんな圧倒的な快楽を、僕はこれまで知らなかった。
「んっ、う……」
 どくどくと、彼の中に精液を注ぎ込む。止まらない。
 やっとすべてを出し切った僕の腕の中で、彼はすでにぐったりとして、完全に意識を手放してしまっていた。



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(2014.11.03 up)
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痛そう……。