Call my name
03
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 その時以降も僕は、閉鎖空間に出動し、帰還するたびごとに彼を抱いた。
 お時間ありますかと誘いの言葉をかければ、彼は淡々と時刻を確認し、割くことが可能な時間を事務的に告げる。では後ほどと言って私室で待っていると、彼は自室でシャワーを浴びいろいろと準備をしてからやってくる。残り時間を時計代わりの通信ユニットにセットし、下だけを脱いでベッドにあがって、あとは僕にされるがままだ。目をきつく閉じ歯を食いしばって、声も出さずに蹂躙を受ける。終わったあとはまた淡々と服装を整えて、失礼しますと敬礼して仕事に戻ってゆく。
 待機だけで済んだ場合も僕は、何かと理由をつけて彼を自室にひっぱりこんだ。忙しくて時間をとれないというときは、人気のない倉庫などに連れ込んで彼のスラックスと下着だけをずらし、僕は前だけをくつろげて短時間でコトをすませたりもする。
 本当に時間のない場合や、彼の都合が悪いときも何度かあったが、そんなときは深追いしない。にこりと微笑んでそうですか仕方ないですねとうなずき、では次を楽しみにしていますと言って引き下がる。だから彼だって、僕の誘いは断れるものなのだとは知っているはずだ。それなのに、彼が断ることは滅多にない。
 最初はかたくてローションの助けなしでは挿入できなかった彼のそこも、繰り返すうちに慣れてきたのか、少しほぐしてやるだけで、なんなく僕を受け入れられるようになった。挿入して激しく突きながら前をしごいてやれば、彼も身体をびくびくと震わせながら射精する。だがそれでも彼は頑なに声を殺し、最中に僕と目をあわせることもしない。
「……少しは、気持ちよくなってきましたか?」
 その日、僕が出動から戻った時間、彼はちょうど夜勤あけの休憩シフトだった。自分のフラットにいるというので直接押しかけ、いつものようにスラックスと下着を脱いで足を開くよう命令する。正面から挿入しつつ、歯を食いしばる彼の顔を見ながら、僕はついそんなことを聞いてみた。
 ぎろり、と彼が眇めた目で睨みつけてくる。それでも上官の質問には答えなければと思ったのか、彼は荒い息の下から、途切れ途切れに言葉を返してきた。
「んなわけ……ない、でしょう、こんな……ただ、突っ込むだけ、で」
「おや、まったくですか?」
「くるしい、だけ……です」
 誘いを断ることも滅多になく、もう僕を受け入れることに抵抗はないようだし、性器も触らずとも反応を見せているので、少しぐらいはと思ったが残念だ。射精させてやればちょっと気持ちよさそうな顔はするのだが、まぁ、それは生物としての本能だし。僕とすることに、まったく何も感慨がないというのはなかなかくやしい。
「パートナーとしては失格ですかね」
「申し訳……ありません」
 期待通りの反応ができなくて、ということだろうか。仏頂面で目をそらしたまま謝罪され、なんとなくカチンときた。
「……今はあなた、勤務外でしょう?」
「は……?」
「僕も今は休憩時間なので、プライベートな時間です。だから、わざわざ敬語を使わなくていいですよ。以前の通りの言葉遣いで」
 実は、ずっと気になっていたのだ。
 この拠点基地に来た直後の彼は、勤務中こそきちんと敬語を使っていたが、勤務外の時間や二人きりになったときには、士官学校時代と同じように気さくに話してくれていた。が、いつの頃からか、彼は僕に対して他人行儀な敬語しか使わなくなってしまっていた。……いや、いつからか、なんてはっきりしている。あの日、彼を強姦して無理やりパートナーにした、あのとき以来だ。
「堅苦しいのはお嫌いでしょう。どうか今まで通りに」
 そらしていた視線をちらりとこちらに向け、彼は痛みをこらえるような顔をした。
「……いえ。あなたは、上官ですから」
「ですから、その点はお気にせず」
「お断りします、幕僚総長殿。自分の、けじめですので」
「…………」
 そういえば、最近は総長、もしくは大佐としか呼ばれていない気がする。今まではずっと、呼び捨てられていたのに。古泉、と。
「けじめ、ですか。……どうしても?」
「恐縮ながら」
 なんだろう、これは。再び目を逸らし、頑なにそう言い募る彼の横顔に、胸の奥からむらむらとこみ上げてくる気持ち。それは凶暴な衝動だった。
「そうですか。では」
 いったん彼から抜いてベッドを離れ、僕は不要な備品を放り込んである引き出しから、最初の時に彼に使った捕虜用の手錠を持ってきた。
「両手を出しなさい。揃えて」
「それ、は……」
「上官の命令には、逆らいませんよね? あなたなら」
「…………っ」
 唇を噛んだ彼は、不承不承といった顔で両手を差し出した。僕はにっこりと笑って、手錠で手首をつないでベッドヘッドに固定する。ベッドに身を乗り出し、怯えた表情をする彼の耳元で、あなたは部下の鑑ですねぇと囁いた。
 それから数時間かけて、僕は彼が意識を完全に手放すまで彼の身体を弄び、しつこく責め立てた。やがて気を失った彼は、呼んでも頬を叩いても反応しなくなる。このへんが限界かと考え、僕は彼の手錠をはずし、布団だけはきちんとかけてあげて(部下に風邪をひかれると困る)、部屋をあとにした。
 それだけやっても、胸の中のもやもやは一向に晴れなかった。



 数日後、僕がシフトにつくと、めずらしく彼がすぐに僕の席へとやってきた。少々よろしいですかと言われ、僕はにこやかに大丈夫ですと答える。困惑したような彼の表情を見るまでもなく、その用件は大体予想が付いた。
「先程、閣下に呼ばれて妙なことを言われたのですが……」
「妙なこと、ですか?」
「はい。『頼まれたやつ、調整するように有希に言っておいたから』と。自分が、なんのことでしょうと質問しましたら、古泉くんと休日をあわせたいって話でしょとおっしゃられて」
 ああ、その話なら僕も昨夜、閣下に直接、了解の旨を通達いただいた。幕僚総長と作戦参謀に同時に休まれるのはちょっと困るけど、今は平時で特に大きな事案もないし、古泉くんはキョンの歓迎お茶会には出られなかったもんねと、とても懐深いところを示されて感激したものだ。
「ですから、なぜそういうことに? 自分は何も聞いておりません」
「そうでしょうね。言ってませんから」
「…………」
 しれっとした顔でそう答えると、彼は口を噤んで眉間に皺を寄せた。何かろくでもないことを考えてやがるなと、その目が言っている。その通りなので、僕はにっこりと微笑んでみせた。
「そんな睨まないでくださいよ。僕はあなたと旧交を温め直したいだけです。二人きりで、じっくりとね」
「……いまさらですか」
 彼は険しい表情のままで、唸るようにそう言った。さんざん無体を働いておいてと言う意味なのだろう。僕はわざとらしく肩をすくめた。
「ええ。僕としては昔のように親しく接していただきたいのに、あなたはなぜか他人行儀なままなのでね。……それとも、いますぐ昔と同じく気さくに話をしてくださいますか?」
 彼はますます眉間の皺を深くし、わざと感情を取り払ったような平坦な口調でまた、上官ですからと繰り返した。まったく、強情な。
「では上官命令です。次の非番の日、僕につきあいなさい」
 我ながら理不尽だ。いくら軍人とは言え、プライベートは尊重されている。本来なら、上官と言えど部下の休日の行動を縛る権利などない。
 が、彼はきっと断らない。そう僕が思ったとおり、彼はしばし躊躇したあと、くやしそうに唇を噛んでうなずいた。
「……アイ・サー」



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(2014.11.03 up)
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次回、ひたすらエロ。