Call my name
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 わかりました、と彼は言った。
 半ば以上脅しと変わらない誘いに、僕を憎々しげに睨みつけていた彼は、やがて大きな溜息とともにその承諾の返事を吐き出した。
 おそらく断られると思っていた。脅迫めいた言葉は使ったが、一応逃げ道は示しておいたし、実際に嫌だと言われたらおとなしく引き下がるつもりではあった。出動′繧フどうしようもなく昂ぶる精神と肉体を、ひとりでなんとか誤魔化しなだめることには、もう慣れているから。
 特殊空戦部隊に所属する能力者たちには一応、出動後には特別手当の支給と臨時の休憩時間が認められている。能力を駆使したあとのこの状態を、各々がそれぞれの手段で処理するための計らいだった。
 方法は人により様々だが、最も多くの者が選択する最も有効な手段がなんであるかは、もちろん知っている。が、恋人もパートナーもおらず、かといって一時しのぎの相手を求めることにも気が進まなかった僕は、これまでは機械的に自分の手で処理し、あとは薬を飲んでひたすら睡眠をとることで乗り切ってきた。今回だってそれでなんとかならないことはないのだけれど……便宜上とは言えパートナーを持った今、その最も有効な手段をとることへの誘惑に逆らうことはなかなか難しい。
 とはいえ、あんな風に無理やり、しかも彼が少なからず持っていてくれたであろう友情をすべて裏切って、卑劣な手段でつないだ関係だ。彼の性格ならば、脅しなどに屈したりせず、リスクを承知の上で断ってくるだろうと思ったのだ。だから彼の返事を待つ間、さてどう丸め込もうかと、頭の中ではすでに算段をはじめていた。脅しが利かなければ泣き落としだろうかと考えたあたりで、彼の承諾の言葉を聞いた。一体どのような思考の果てにたどり着いた返答なのだろうといぶかしくは思ったが、聞いた瞬間にもう、身体の内側を炙る欲望は耐え難いほどになった。
 準備をしてこようかと彼は言ったが、それを待てるほどの余裕すらすでにない。僕は彼の腕を引き、早足で自分のフラットへと向かった。彼は抵抗も、一言の文句をつけることもなく、諾々と僕に引かれるままついてきた。
 部屋に入ると彼は、腕の通信ユニットで再び時間を確認した。銀河標準時の表示も可能なそれを見ることで、僕と目を合わさないようにしているのがわかった。
「副官には、医局に行って薬をもらってくるとだけ言ってあるので、それほど長い時間はとれないと思います」
 薬、という単語を聞きとがめ、どこか具合が悪いのかと聞いてみる。だが彼はきっぱりと首を振った。
「いえ、少々めまいがしただけですので。もうおさまったので問題ありません」
「そうですか? では、何か飲みものでも」
 前回、この部屋でしたときは、完全に無理やりだった。その記憶が蘇れば緊張もするだろうと考え、少しは気をつかってみせたのだが……彼はかたい表情で首を振った。
「前述の通りあまり時間がありませんので、手短にお願いします。ベッドでよろしいですか」
 静かに室内を見回した彼は、僕の返事を待たずにさっさとそちらに足を向けた。僕の顔を、まったく見ようとしない。淡々とブーツを脱ぎ、ベッドに腰掛けて制服のホックに手をかける。ああ、そうか。そのつもりなのかと得心した。
 まぁ、いい。彼がそのつもりなら、相応に扱うだけだ。
「上は脱がなくても結構ですよ」
 手を止めて、彼がようやく僕に、問うような視線を向ける。
「下だけで充分です。さっさとベッドに寝て、俯せになりなさい」
 グッと、彼が密かに唇を噛むのが見えた。事務的に、業務の一環として対応しようとしたくせに、いざそう扱われると傷つくのか。勝手なことだ。
 彼は黙ったまま、ベルトを抜いてヤケクソのようにスラックスと下着を一緒に脱ぎ捨てた。ベッドにあがり俯せに寝そべる彼の腰を両手で掴んで、双丘を乱暴に割り拡げる。彼は悲鳴じみた声をあげかけ、あわててかみ殺した。
「……せまいですね」
「申しわけ、ありま、せん」
 触ってみても、おそらく2回目であろう彼のそこは、まだ固くてせまくてどうにもならない。必死に羞恥に耐えているらしい彼が、かすれた声で謝罪する。僕は黙ったまま、彼のそこに以前使ったのと同じローションをぶちまけた。
「ひ……っ」
 ゆっくり慣らす余裕はないし、彼もどうやらそんなことは望んでいないようだ。ローションでぬめりを足したそこを指で乱暴にほぐし、なんとかゆるんできたところを見計らい、とっくに準備万端の自分のものを強引に突っ込んだ。さすがに悲鳴を殺せなかった彼の声をBGMに、ピストンを開始する。
「……いっ、てぇ……っ……」
 シーツをきつく握り、彼はこらえきれない苦鳴をもらす。事務的な反応をしたかったようだが、さすがにそれは無理なようだ。
「で、しょうね……っ、でも……きつくて、とてもいい、ですよ……あなたの、中」
 うるせえとか黙れとか、悪態が返ってくるかと思ったが、彼は何も言わなかった。ただシーツに顔を埋め、必死に声を殺している。かなり苦しそうだが、僕を飲み込んでひくひくと蠢くそこは、彼がうめくたびきつく締め付けてきて、とても具合が良かった。
 僕はそのまま腰を振り続け、彼の中に2回出した。終わったあと彼はろくに処理もせず、身支度を調え、敬礼してよろよろと部屋から出て行った。あのままじゃ気持ち悪いだろうにとはちらりと思ったが、僕は睡魔に逆らいきれず、乱れたままのベッドで墜落するような眠りに落ちたのだった。



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(2014.11.03 up)
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まだまだ相変わらずきちくな幕僚総長です……