Hello,world
02
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 翌日からの勤務は、けっこう目が回るような忙しさだった。
 作戦部での作業自体は慣れてはいるが、統括する立場になるとやはり勝手が違う。まわされる案件も桁違いだし、部下への指示も楽ではない。幸い、俺のすぐ下についてくれたベテランの副官が同じイーストアジア系出身者で、同郷意識からか何かと手助けしてくれた。おかげで業務も滞りなくなんとかこなせ、彼の仲介で他の部下たちとも折り合いをつけることが叶って、針の筵も数週間がたつ頃にはなかなか座り心地のいいものになった。やれやれだ。
 ハルヒと長門とはその後、ハルヒ主催の内輪のお茶会とやらに招かれて、旧交をあたためた。卒業以来どうしていたか話したり、ハルヒ自身や長門や古泉に関する噂の真相を聞いたりと、なかなか有意義な一時を過ごさせてもらったが、それはかなり無理やりスケジュールを詰めて捻出した数時間だったらしい。さすがに古泉は出席できなかったし、その後は文字通り飯を食う暇もないほどの忙しさになったようだ。
 だから、この基地に到着したあの夜以来、古泉とはゆっくり話す機会はまったくない。ちょっとつまらないなとは思うが、まぁ、学生時代みたいにはいかないことなんてわかってるさ。これでも俺たちは軍人で、ここはまがりなりにも職場なんだし。
 そんな調子で過ごすうちに巡って来た非番。その日は赴任以来初めて、なんの懸案事項もないというエアポケットのような日となり、俺は少々、暇をもてあますことになってしまった。
 古泉やハルヒたちは相変わらず忙しい。かといって、あいつらの他に非番を一緒に過ごせるほど親しい相手はまだいないし、基地にも不慣れだから、娯楽といってどこで遊べるのかもよくわからん。が、貴重な休日をフラットの中で過ごすのもアレなんで、俺はとりあえず酒が飲めるような場所を探して、行ってみることにした。
 そのへんの奴を適当につかまえて聞いてみれば、場所はすぐにわかった。俺は教えられた通り商業区域の方に出て、あえて士官用ではない方の酒場に入ってみた。



 そう広くもない酒場の中は、雑多で陽気な声にあふれている。
 女が侍るような店ではない。そこここに制服や作業着姿の連中が、男女も入り交じってたむろし、笑ったり歌ったりしながら杯を傾けている。最初に古泉が、ハルヒが堅苦しいのを好まないとか言ってたが、そんな気質が基地全体に影響してるのか、雰囲気はおおむね開放的でリベラルだ。俺はカウンターに腰掛けて酒を注文し、なかなか悪くないなと独りごちた。
 店のマスターと、はじめてかい、ああこないだ赴任してきたばっかりなんだ、なんて会話をしながら喧噪を眺めていたら、隣の席に誰かが座った。同時に、おっちゃんいつもの! と勢いよく注文する声に、聞き覚えがある気がして思わず顔をあげる。気配に気づいたのか、そいつも俺の方を振り返った。技術部のものらしい水色のツナギと、あまり似合ってないオールバックの髪型。目があって一瞬の沈黙ののち、俺たちは同時に声をあげた。
「……谷口!」
「キョンじゃねえか!」
 そいつは、月基地にいたときにひょんなことで知り合い、なんとなく気があって仲良くなった男だった。名前は谷口……なんつったかな、まぁいいや。
「お前もこの基地にいたのか」
「おう、去年からな! 班ごと移動してきたんだぜ。そういうキョンは、来たばっかなのか? その制服、相変わらず作戦部なんだな」
 そう言って俺の階級章を見た谷口は、ぎょっとしたみたいに目をしばたたかせた。ああまぁ、ここに引き抜かれるときにわけのわからん昇進をしたからな。
「あー、俺は今は、この師団の作戦参謀だ。すまんな」
 闇雲に謝ってみると、谷口はしばらく目を見開いて俺を見つめていた。が、やがてひとつ溜息をつき、いやいやいやと首を振った。
「そーか、たいした出世だな。でもまぁ、仕事中以外ならふつーにタメ口でいいよな?」
「おう、まったくかまわんぞ」
 変わらない態度に少しホッとして、うなずいてみせる。谷口はそれじゃ再会を祝して、と俺の手元のグラスに自分のジョッキをぶつけ、ぐいと飲み干した。
「っかーッ! うっめえ! 仕事あがりの一杯は最高だな!」
「今日はもうあがりなのか」
「ああ。ちっと面倒な整備があって残業してたんだ。やっとあがったはいいが、他のやつらがつかまんなくてなー。まっすぐ帰るのはつまんねえから来てみたんだけど、俺はツイてるな。昔のダチに会えたんだからさ!」
 俺も、まさかこんなとこで知り合いに会えるとは思わなかった。嬉しい誤算ってやつだな。
「んで、キョンは非番なのか?」
 マスターにおかわりを要求しながら、谷口が聞いてくるのにうなずく。つられて俺も手元のを飲み干しちまったので、マスターにもう一杯と注文した。
「まだこの基地に来て日が浅いんでな、遊びにっつってもどこに行けばいいのかわらなくてさ」
「この商業区域になら、けっこういろいろ揃ってるぜ。飲み屋も食い物屋もたくさんあるし、ムービーも本星で去年流行ったよーなやつなら見られるし、綺麗なねーちゃんのいる店も……」
 そこで谷口は、ニヤリと笑った。
「ヒマなら連れてってやろうか? イイとこ知ってるぜぇ?」
 あー、そういやこういう奴だったな。こいつとの会話は、8割がシモネタだったような気さえする。俺は笑って、遠慮しとくぜと言った。
「赴任早々そんなとこに入り浸ってたら、何言われるかわからんからな」
「なんだよ、カノジョにか? それともパートナーいるのか、お前」
「いや、いまんとこ特には……ん? パートナー?」
 さらりと出てきた単語を聞きとがめる。谷口はすぐに気がついて、そういえばそうだったなと頭を掻いた。
「月基地は、頭のカタい偉いさんが多かったからなー。あんまり推奨されてなかったんだっけ?」
「パートナー契約か。たしか禁止されてたと思うぞ。風紀が乱れるとかで」
「へっ! なーにが風紀だ。セックスなんてもんは、人間の本能なんだからよー。隠れてこそこそする方が乱れるってーの!」
 パートナー契約≠ニいうのは、別に公式の制度ってわけじゃない。長期間に及ぶことの多い航行中の艦内などで、主にストレス解消を目的に性的関係を結んでいるもの同士のことをパートナー≠ニ呼び、その関係を俗に契約≠ニ呼んでるってだけだ。法的な制約や権利も特にない。
 地上やコロニーの基地ならともかく、艦内じゃそういった目的を果たせるような施設もないもんで、トラブルを避けるために発生したのではないかと言われている。いつごろからかは知らんが、軍内部ではわりと伝統的に行われてる習慣だ。
 だがまぁ、部隊によっては風紀が乱れるからという理由で、パートナー契約を禁止しているところもある。月基地なんかは、その典型だったよな。
「ここはそんなことないぜ。なんせ司令官閣下が、堅苦しいことは大嫌いだって宣言してるからな。問題さえ起こさなきゃ、好きにしろってさ!」
 話がわかるよな、会ったことはねえけど、と谷口は、まるで自分の功績みたいに胸を張る。まぁ、ハルヒらしい言いぐさだな。
「というわけだから、な! 今現在、カノジョもパートナーもいないってんならちょうどいいじゃねえか。綺麗どころの揃ってる店でもいいし、なんだったらパートナー候補探しに、兵站のかわい子ちゃんたちがよく来るとこに連れてってやってもいいぜぇ? お前ならモッテモテ間違いナシだ!」
「いや、俺は別にそういうのは……」
 鼻息の荒い谷口の勢いに若干引きつつ、俺は苦笑して断ろうとした。なんというか、そういった方面にはあまり乗り気になれないのだ。まったく興味がないってわけでもないんだが、熱心に相手を探したり口説いたりってのは、正直めんどくさい。もともと淡泊なのか、すでに枯れてるのかは自分でもわからんが。
 俺のそんなノリの悪い態度を誤解したのか、谷口はちょっと渋い顔をした。
「なんだぁ、キョン。お前もしかして、後腐れが面倒だからって同性選ぶタイプか?」
 ああ、そいうえばそんなのもいるな。パートナーは割り切ってセックスだけを楽しむ相手だからっていう理由で、本気になったら困るとか、妊娠のリスクとか、本来の配偶者や恋人への遠慮なんかを鑑みて、同性を相手に選ぶやつ。
「ま、本星の中央都市とか政令惑星なんかじゃ同性婚も珍しくねーし、それならそれでかまわんとは思うが、そうなると俺のカバーしてる範囲じゃ相手紹介できねえなぁ」
 んー、と考え込んでる谷口を、俺はあわてて遮った。
「いやいや別にそういうわけじゃない。どっちかっていうと、俺は異性派だ」
「お? そーかそーか。んじゃ、いいじゃねえか。ついて来いよ、キョン。可愛い子紹介してやるぜ!」
 もはや止めるスキも辞退するヒマもなく、俺は谷口にひっぱられてその店を出て、隣のブロックにあった店に連れて行かれた。



 賑やかな音楽が流れる店内は、さっきの店よりは明るい雰囲気で入りやすい感じだ。客層も若い。谷口は店内をキョロキョロと見回して、すぐに知り合いを見つけたのか、奥のテーブルにいたグループの元へと俺を引っ張って行った。
 若い男女数人のグループだ。国籍も様々な連中は、ほとんどが下士官だった。もういい具合に酔っているらしく、谷口が俺をこの基地に来たばっかのダチだからよろしくしてやってくれと紹介すると、すぐに陽気に迎え入れてくれた。店に入る前に、無粋だからと階級章のついた上着は脱がされてしまった(ベレーはもともとかぶっていない)が、ズボンの色で部署はすぐにバレたようだ。
「作戦部の人なのね。お名前は?」
「あー、俺は……」
「キョンって呼んでやってくれ! おもしれーだろ?」
 名乗ろうと思ったところを谷口に遮られた。この野郎。
「変わった名前ねぇ。どっかの辺境惑星の出身?」
「いや、本星のイーストアジア地区だが……ただの学生時代のあだ名だ」
「へぇ! 私、子供の頃イーストアジアに住んでたことあるわ!」
 そう言って俺の顔をのぞき込んできたのは、癖の強そうな赤毛をポニーテールにした女の子だった。サーモンピンクっぽい制服は兵站の……医療部だったっけ? 顔つきはラテン系だが、いろいろ混じってそうだな。
「そうなのか? 日本っていう小さな島国なんだが……」
「私がいたのは香港だけど、日本にも行ったわよ。すぐ近くよね」
「まぁ、そうだな。飛行機だと4〜5時間くらいか」
 彼女はそのまま俺の隣に座り、いろいろ話しかけてきた。明るくて人なつこい子だな、と思いながらしばらく話し込む。呼ばれた気がして振り返ると、谷口がこっちを見て人さし指でちょいちょいと手招いていた。
 仕方なく席を立つ。少し離れた場所で谷口に肩を抱かれ、音楽に紛れて席までは聞こえない程度の声で、耳打ちされた。
「なかなかイイ感じじゃねーか。あの子、隣に座ってる金髪の子と仲がいいんだ。どうよ。そのふたりと俺とお前で、抜け出さね? もう1軒行って、そのあと二手にわかれようぜ」
 うひひ、と笑う谷口に、そううまくいくかよと言おうと思ったが、俺もどうやら酔ってたらしい。まぁ、それもいいかなと考え直してうなずいた。谷口はよっしゃヤルぜ! と気合いを入れて振り返り……そこでなぜか凍りついた。
「? どうした谷口」
 なぜか真っ青な顔の谷口の視線を追ってみたら、俺たちの席に人が増えているのに気づいた。水色の軍服を着た小柄な男だ。テーブルの脇に立つ後ろ姿だけが見えている。
 くにきだ、とうわ言みたいにつぶやいた谷口の声が聞こえたのか、その小柄な背中が振り返った。
「やぁ、谷口。僕との約束すっぽかして、こんなとこで何してんの?」
 すっごい笑顔で、そいつは小首を傾げる。女の子かと見まごう可愛らしい顔と声と仕草だが、こいつは紛う方なく男だと知っている。まったく、今日はよくよく奇遇が重なるな。
「国木田か」
「あれ……キョン? どうして谷口と、っていうかなんでここにいるんだい?」
「こないだ赴任してきたんだよ。お前、その制服は技術部か。谷口が班ごと移動してきたって言ってたが……」
「うん。僕が班長なんだ」
 言いながら国木田は、すすっと近づいてきて、谷口の顔を笑顔のままのぞきこむ。谷口の方は、逃げたいけど逃げられないみたいな様子で棒立ちしていた。
「お前ら、知りあい、か?」
 なんとか絞り出したとおぼしき谷口の声に、国木田はまたにっこり笑ってうなずいた。
「士官学校のとき、専攻が一緒だったんだよ。ほら、何度か話したことあるでしょ。戦術シミュレーションの授業で、僕が唯一、一度も勝てなかった相手」
「ああ、あの……」
 模擬戦か。そんなこともあったな。まぁ、他の科目では大体負けてたけど。
 そういえば国木田は途中で転科したらしくて2年目はあまり見かけなくなったが、技術部にいるってことは技術開発科に行ったのか。
「それより谷口? 残業終わったら、僕のとこ来るように言ってあったよね? 忘れてたのかなー?」
 つん、と指先で胸をつつかれ、谷口はびくっとして直立不動になった。
「いや! これから行くとこだったんだよ! キョンがどーしても女の子と遊びたいっつーから、しかたなく案内してきたんだ! ダチだし! うん!」
「そ? じゃあ行く?」
「お、おう! じゃあな、キョン! 頑張れよ!」
 そのまま谷口は、国木田に引きずられるように店を出て行っちまった。今日は長い夜になるねぇとか国木田が言ってるのが聞こえたが、あいつらどーいう関係だ。いや、ふたりとも技術部なんだから、上司と部下か。
「なんなんだ、あれは」
 谷口の奴、なんか仕事でヘマでもしたのかね? あんだけおびえてるってことは、かなりのミスだったんだろうが……始末書ですむよう、祈っといてやるぜ。
 席に戻ると他の連中は、訳知り顔でニヤついてる。よくあることさと言うからには、谷口はしょっちゅう国木田にドヤされるようなことをしてんのか。しょうがねえ奴だな。
「ほっときなさいよ、犬も喰わないアレなんだから」
 赤毛の彼女はそう言って肩をすくめる。それは用法が間違ってるなと思ったが、わざわざ訂正するようなことでもないか。そんなことより、谷口がいなくなったってことはどうするかな。奴はいないが計画のとおり、抜け出そうかと誘ってみるべきか?
 そんな考えを巡らせてグラスに口をつけていたら、赤毛の彼女はふいに俺の方にぐいぐいと身を寄せてしてきた。な、なんだなんだ。
「ねぇ、それよりあなた、作戦部なのよね?」
「へ? ああ、そうだが……」
「古泉幕僚総長に会ったとこある?」
 そりゃあるが、と答えた途端、席にいた他の女の子たちの目が輝いた。一様に身を乗り出し、一斉に聞き耳をたてる。
「彼、恋人とかパートナーとか、いる気配ある?」
「そうそう。特別仲よさそうな女とか……ああ、男でもいいわ、そういう相手がいるのかしら?」
 ものすごい迫力でじりじりと詰め寄られ、思わず及び腰になる。そんなの知るか。赴任してから数週間、忙しく仕事してる姿しか見てないんだからな。
「さ、さぁ……一番親しくしてんのは、涼宮閣下だと思うが」
「やっぱりあの2人、プライベートでもつきあってるの!?」
「いや、なんか言い寄ったけど相手にされなかったとは、言ってたな」
 ざわっ、と女の子たちが色めき立つ。やっぱり閣下のことが……とか、でも振られたならもしかして……とか、小さい声でヒソヒソしているのを聞けば、いかに鈍感な俺にだってわかる。まぁ、そうだろうよ。思えば、学生時代もそうだった。一体何度、橋渡しやら紹介やらプレゼント代行やらを頼まれたか。
 やれやれと溜息をつくと、一緒の席にいた男どもと目があった。お互いに、しょうがねえなと目で会話して肩をすくめる。ま、古泉と張りあおうなんて、疲れるだけで時間の無駄だよな。



 非番が終わり、次の日は夜間勤務だった。
 平時ということもあって比較的人の少ない司令部には、めずらしくゆったりとした時間が流れている。もう2時間も続けていた書類の処理を中断し、一息入れようと休憩スペースへと足を運ぶ。ドアを開けたら中には、先客がいた。
「おや、あなたも休憩ですか?」
「古泉……幕僚総長。失礼しました」
 とっさに直立不動になり、敬礼する。古泉はくすっと笑って、2人きりですし普通でいいですよと言った。
「あなたに敬語で話されるのは、なんだか落ち着かなくて」
「……まぁ、俺だってお前相手に丁寧語は、なんだか妙な感じではあるんだけどな」
 敬礼していた腕をおろして、それならと言葉を戻す。何を飲みますかと聞かれ、恐れ多くも幕僚総長殿にコーヒーを淹れていただいた。カップに注ぐだけのやつだがな。
「ゆっくりお話するのは、初日以来ですねぇ」
「そうだな。幕僚ってのが、こんなに忙しいとは思わなかったぜ」
 コーヒーをのんびりすすりつつ、俺は溜息をついた。向かいの壁に寄りかかった古泉は、紅茶を飲んでいるみたいだ。
「今、長門さんが中心になって、少しずつシステムの入れ替えをしているんですよ。それにともなう雑事の分、仕事が増えているんです。すみません」
「ああ、そうなのか……。長門も大変だな」
「彼女はけっこう、楽しそうですよ。お願いしないと非番の日も仕事をしようとするので、休んでいただく方が大変です」
  長門は、そうだな。あいつはちょっと特殊だから、本当は休憩なんていらないんだろう、たぶん。だがあいつの正体を知らない人間の方が多い以上、休ませないわけにもいかんよな。
「あなたは昨日、非番でしたよね。何をされていたんです?」
 急に話をふられて、俺はたいしたことはしてねえよと答えた。
「商業区域の方に行ってみた。月基地んときのダチに偶然会って、仲間紹介してもらったり」
「へぇ。楽しい休日を過ごされたんですね」
「まぁな。可愛い女の子多いな、ここ」
 とは言っても結局昨日は、飲んで騒いでおやすみと手を振って別れただけだ。まったく、健全な休日だったぜ。
「おや、どなたか女性とお近づきにでも?」
「ああ……、かなり熱烈にな」
 ヤケクソな気分で、肩をすくめてみせる。女性陣からは、古泉幕僚総長について熱烈な質問攻めにあったからな。よく知らんと言っても、それなら聞いてきてくれとしつこいしつこい。
「……なぁ、古泉」
「はい?」
 いや、聞いてこいと言われたからってわけじゃないんだが……。確かに、気になると言えば気になるよな。これだけモテりゃよりどりみどりだと思うけど、古泉には、恋人とかパートナーとか、いるんだろうか。
「この基地、というか艦隊は、パートナー契約してもかまわないらしいな。月基地だと禁止だったけど」
「ええ、まぁ。軍規や公序良俗に反したり、任務に影響がでない範囲ならば」
 何を思ったか、古泉は少し眉を寄せ、困ったように笑った。手にしていた紅茶のカップを、テーブルに置く。
「なんですか? もしや、契約したいと思う女性でも見つけた、とか……」
 は? なんでそうなるんだと目をしばたたいた。いや、そうじゃなくてお前のことをだな、と言おうと座っていた椅子から腰を浮かせたところで、いきなりドアが開いた。振り返ったらそこにいたのは、なんとハルヒだった。
「ハ……じゃなくて、涼宮閣下!」
 あわてて姿勢を正し、敬礼する。と、ハルヒは何も言わず不機嫌そうに、ずかずかと中に入ってきて飲料ケースから飲み物のパックをとった。
「閣下……?」
「涼宮閣下、どうか……?」
 ハルヒは黙ってじろりと俺をにらみつけ、無言のまま休憩スペースを出て行こうとした。ドアが閉まる直前、また俺をにらみつけぼそっと言い捨てていく。
「……バッカじゃないの? サル!」
「は……?」
 わけもわからず眉をしかめ、俺は首を傾げた。古泉の方を見ると、奴はますます難しい顔で、じっと閉じたドアを見つめている。小さい声で、失敗だったか、とつぶやいたのが聞こえた。
「えっ? 何が」
 古泉には俺の問いに答えず、ふいに組んでいた腕をほどき、早足で司令室へと戻っていった。
「おい、こいず……」
 ――直後、基地内にアラートが響き渡った。
 同時に報じられる、第一級警戒態勢。

『座標ポイントα−3378方面に敵影! ――神人¥o現!』



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(2013.04.07 up)
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めずらしく別カプ入ります。
谷国。