「どうぞ、お入りください」ガチャ
「おじゃましまー……って、またひでえ散らかりっぷりだな!」
「あはは、すみません。この間、せっかく掃除していただいたのに」
「ったく。まぁ、いまさらだからいーけどよ」
「シーツはちゃんと替えてありますから、大丈夫ですよ。そのへんに適当に座っててください」
「そのへんったって、ベッドくらいしか座るとこねーじゃんか」
「お湯湧かしますね。買って来たカップ麺、食べるんでしょう?」
「おう、頼む。やれやれ、枕元までこんなに本積みやがって」
「寝る前くらいしか、読む時間がないんですよ。えっと、ヤカンは、と……」
「読むやつだけ持ち込めっての。これじゃ俺の寝る場所が……ん?」
ゴソゴソ
「あれっ……おーい、古泉」
「はい? なんですか」
「これ、買い置きあったっけ? 箱の中身、空っぽなんだが」
「あー……、そういえば、この前いらしたときに使い切っちゃったんでしたっけ。ありませんよ、困りましたね」
「さっきのコンビニで買えばよかったかな」
「あそこ、一番よく使うコンビニじゃないですか。男同士で、肩を並べて買う度胸がおありで?」
「……ちょっとした罰ゲームだな」
「でしょう? 僕も、行きにくくなるのは困りますし」
「一人で買うのも、レジが女の人だとなんか気恥ずかしいけどな」
「笑顔を崩さず、堂々と買うのがコツですよ」
「そりゃお前、ただしイケメンに限る、って奴だろうが。うーん、どうするかな……。生はちょっとなぁ。明日も学校あるし」
「お腹痛くなるって言ってましたよね。まぁ、中で出さなきゃいいんじゃないですか」
「そうなんだが……」
「? 何か、ご不満ですか?」
「いや、まぁ……お、沸いたみたいだぞ。お湯」
「おっと」
「……冷静に考えたら」
「はい? あちっ」
「気をつけろよ。舌、やけどすんぞ」
「はい、ありがとうございます。……それで、何ですか」
「いや、冷静に考えたら、なんかものすごい会話してないか、俺たち」
「そうですか? 大事でしょう、セーフセックス」
「いやまぁそうだが、それ以前にな」
「?」
「学校から帰る途中に、普通にコンビニでカップ麺とかジャンプとか買ってダチの家に寄っただけのはずなのに、ナチュラルにゴムがねえなとか気にしてる自分がさ。なんか慣れって恐ろしいなと」
「まぁ、言われてみればそうですねぇ」
「……何をニヤニヤしている」
「いえ? いつも通りですよ?」
「嘘つけ。顔面総崩れだ馬鹿」
「そんなことは……いたたたた、顔ひっぱんないでくださいよ! しょうがないじゃないですか。もう慣れちゃうほどしたんだなって思ったら、顔面くらい崩壊しますって」
「だーっ!! 言うな! 恥ずかしいわ! もう今日はやめるか、ゴムないんだしっ」
「えっ、そんな! 大丈夫です、ちゃんと外に出しますからっ! ばっちり!」
「だからそーいうこと言うなっての! ほらのびるぞ、カップ麺っ」
「でもっ」
「いいから黙って食え」
「ううー……」
ズルズル
「はぁ、ごっそさん」
「ごちそうさまでした……」
「テンションひっくいな、おい」
「だってー」
「ったく。あー……俺、ちょっと飲み物買ってくるわ」
「え、コーラとポカリなら、まだ冷蔵庫にありますよ? アイスコーヒーなら作りますし」
「いや、えーと……っそうだ、ファンタが飲みたくなったんだ。急に」
「はぁ」
「んじゃ、ちょっと行ってくるな。カギどこに……あ、あった」
「自転車ですか。コンビニまで、徒歩5分なのに」
「い、いーだろ別にっ」
「ああ……なるほど」
「なにがっ」
「この時間だと、あのコンビニのレジは女性の可能性が高いですもんね」
「うるせー馬鹿! 関係ねーっての! 行ってくるっ」
「お気をつけて」
バタン
「……なるほど。途中で抜かれるのは、嫌なんですね。憶えておきましょう」クスッ
END
(2011.12.15 up)