長門有希の覚え書き
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7月21日 水曜日

 今日は一学期の終業式。明日からから夏休み、ということで、今日からある対象に関する観察記録を記そうと思う。
 観察対象は、北高2年5組にして我が文芸部副部長(部員2名だけど)の通称キョンくんと、光陽園学院2年A組の古泉一樹くん。ふたりは、わたしが所属してるSOS団……ただ集まって遊んでるだけのサークルみたいなものだけど……そのSOS団のメンバーで、どうやらいわゆるおつきあい≠している、らしい。
 でも、キョンくんと古泉くんは学校も違うし、性格も正反対と言っていいくらいだし、古泉くんにいたっては、最初の頃キョンくんのことなんとなく敵視してる感じだったのに、いつの間にそんなに仲良くなったのかなぁ。不思議。
 ふたりのことを知ったときはびっくりして、ちょっと寂しいなって思ったな。
わたしはずっとキョンくんのことが、すき、だったから。でも、彼はわたしのこと、妹みたいにしか思ってないって知ってたし……かえってすっきりした、かな。

 終業式の終了直後に、SOS団の団長でもある光陽園の涼宮ハルヒさんから連絡が来た。夏休みの計画の最終調整をするのだという。わたしはキョンくんと、同じくメンバーの朝比奈みくる先輩と待ち合わせて、駅前のいつものファミレスに向かった。
 光陽園の方が距離的に近いから、わたしたちが着くころには大抵、涼宮さんと古泉くんが先に来て待っている。今日もやっぱりお店に入ったら、長い髪に黄色のカチューシャをつけた涼宮さんと、襟もとまできっちり止めた制服のYシャツ姿の古泉くんが、いつもの席に座ってた。
「待たせてすまんな、涼宮、古泉」
「キョン、おっそい!」
 っていうのが、いつも交わされる定番の挨拶。そんなやり取りを聞きながら、わたしたちはテーブルに着いた。
 キョンくんと古泉くんは、絶対に隣同士には座らない。当然みたいな顔で、大体は向かい合わせの席に着く。なんとなく観察してたら、電車の席とか遊園地のアトラクションの席でもそうだった。でもふたりとも、意識してそうしてるわけじゃないみたい。キョンくんにどうしてって聞いてみたら、え、そうか? って意外そうな顔をしてたから。
でもそう言いながらも、古泉くんと会うとやっぱり当たり前みたいに向かい側に腰を下ろす。変なの……。
 歩くときは涼宮さんが、わたしと朝比奈先輩を両側にすることが多いから、ふたりは自然にわたしたちの後ろを並んで歩くことになる。何を話してるのかはあんまり聞こえないけど、ときどき振り返ってみると、すごい近い距離で話してたりしてびっくりする。
 今日も駅までの道を歩いてるとき、そおっと後ろを振り返ってみたら、ふたりは肩がぶつかるくらい近くにいた。歩きにくくないのかなって思ってよくみたら、小指だけで手をつないでた。わたしが振り返ってるのに気がついたら、キョンくんがあわててふりほどいちゃったけど……。古泉くんがすっごく残念そうな顔してて、悪いことしちゃったなって思った。気にしなくていいのにな。



7月22日 木曜日

 夏休み初日。さっそく今日から開始の夏休み計画第一弾は、プール。
なんでこんな地元のしょぼいプールなんだよってキョンくんは文句言ってたけど、その割には楽しそう。
 何かにつけてわたしのことを気にかけてくれたのは、たぶんいつもは妹さんにしてることなんだろうなぁ……。「長門、ちゃんと準備運動したか」とか、「しばらく泳いだら、ちゃんと休憩取れよ」とか、本当に世話焼き。……ちょっと嬉しかった。
 でも、古泉くんの機嫌がだんだん悪くなってたような気がしたけど……大丈夫だったのかなぁ。

「あなたは、本当に長門さんには親切ですよね」
「そうか? 普通だろ」
「じゃあ、涼宮さんや朝比奈さんにも同様の注意をしてさしあげては?」
「涼宮はプール中飛び回ってるから声かけるヒマなんてないだろうが。朝比奈さんはあれでも年上なんだから、長門と同じ調子で注意なんでできん」
「じゃあ、僕はどうなんですか! 同い年ですよ!」
「お前は男だろうが。野郎に向ける気遣いなんぞない」

 こんな会話だったかな。
キョンくん、けっこうヒドイと思う。



7月24日 土曜日

 今日はキョンくんのおうちに集まって、みんなで夏休みの宿題をすることになった。
なんでも昨日、涼宮さんがキョンくんと電話で話して、キョンくんが毎年ろくに宿題を提出せずに終わらせるってことを聞いたらしい。あたしがついていながらそんなことは許さないわ、今晩は徹夜覚悟でキョンの宿題強化合宿よ! っていう彼女の号令で、急遽決定した行事らしい。
 わたしとしてはキョンくんのお部屋に入れるのはちょっと嬉しかったんだけど……古泉くんは少し、元気がなかった。いつも通りの笑顔だったけど、なんとなくしょんぼり。もしかしたら、一昨日のプールでしてた小さなケンカみたいなの、まだ引きずってるのかな。

 ……って思ったから、わたしはふたりが1階におやつを取りに行ったとき、トイレに行くフリをしてそっとあとをつけてみた。心配だったから。
 うん。決して、盗み聞きしようと思ったわけじゃ、ないんだけど。

「……しょうがねぇだろ今回は。涼宮が、一応俺のためを考えて企画してくれたんだし」
「わかってますよ……。ただ、期待してた分、落胆が大きかっただけです」
「だったらそんなに、しょんぼりしてんな。夏休みはまだはじまったばっかりなんだから、これからまだ機会はあるだろ」
「僕、そんなに顔に出てます?」
「あー、まぁ、わかるのは俺くらいかもしれんがな」
「…………」
「なんだよ、急ににこにこして。気持ち悪いな」
「いえ、なんか嬉しくって。僕のささいな変化に気づいてもらえるなんて。愛ですねっ」
「ばっ……! ホントに恥ずかしいなお前は!」

 う〜んと? もしかしてふたりはこの週末、一緒に遊ぶ約束でもしてたのかな? それがこの宿題強化合宿でつぶれちゃったのかも。階段の途中で話してるふたりに見えないよう隠れてメモを取りながら、わたしはそう予測してみた。
 それにしても、たしか告白したのはキョンくんからだって聞いたけど、どっちかというと古泉くんの方がぞっこんって感じだなぁ。
 念のためそれもメモしてから、やけに静かだなって思って階段をのぞいた。降りていく足音は聞こえなかったのに、話し声が止まったままだったから。
 だから決して、わざとじゃ、ないんだよ?
 壁に寄りかかったキョンくんに古泉くんが覆い被さるような体勢で、ふたりは、キス、をしていた。
 すごくびっくりして、思わずそこから逃げ出しちゃった。……バレなかったかな?



7月26日 月曜日

 今日から1週間、キョンくんは家族で、田舎のお祖母ちゃんの家に行くらしい。
その間は、SOS団の活動はお休み。自由行動よって言われたけど、涼宮さんと古泉くんは、遊んでばかりいるわけにもいかないらしい。課題のほかにもいろいろあるのよねとぼやく涼宮さんに受験生の朝比奈先輩が、わかります〜私も勉強しないと、って共感してた。進学校ともなると、大変だな。
 わたしはひとりで、図書館に通うことにした。読みたい本が、いろいろあるから。



8月1日 日曜日

 キョンくんが、帰ってきた。
おみやげを渡しに来てくれた彼は真っ黒に日焼けしていて、なんだか逞しい感じになっていた。どうやら、毎日元気いっぱいに遊ぶ親戚の子供たちの面倒を見て、川とか海とか野原とかを走り回っていたらしい。

「ホントにガキどもの体力ってのは底なしでな。まったく疲れたぜ」
 他のメンバーにもおみやげを渡しに行ったのと聞いてみたら、いいや、涼宮と朝比奈さんの家は知らないしって答えた。……あれ、じゃあ古泉くんの家はもう知ってるんだ。
「う……いや、まぁ……何回か遊びに行ったし」
 ふぅん。
「ホントに遊びに行っただけだぞ!? 他には何もしてないからな!」
 彼はなんだかあせった様子でそう強調してたけど、遊びに行く以外の用事ってなんだろう。勉強とか? 勉強してないのを、そんなに主張することないのに。

 とりあえず、彼がいない間止まってた観察記録を再開しようと思う。



8月2日 月曜日

 と、思ったのに、今日からの1週間は、古泉くんが涼宮さんと一緒に夏期講習を受けなければならないんだそう。これは別に成績が悪かったから補習っていうわけじゃなくて、受験のための特別授業なんだって。ホントに、進学校って大変だと思う。
 だからSOS団の活動は、また1週間おやすみ。少し残念。

 ……そういえば、宿題合宿のときにキョンくんが言ってた「これからまだある機会」って、これじゃ全然作れてないんじゃないかな。もしかしたらちゃんとしたデートも出来てないのかも……。なんだか可哀想……。



8月4日 水曜日

 駅前で偶然、古泉くんを見かけた。夏期講習の帰りらしくて制服を着たまま、いつも待ち合わせしているあたりの植え込みに座ってボンヤリしてるみたいだった。
 声をかけた方がいいかなって一瞬思ったけど、わたし、まだキョンくん以外の男の子と1対1で話すのは苦手だからやめておいた。
 古泉くん、疲れてたのかなぁ。すっごく重い溜息ついてた。



8月7日 土曜日

 今日はやっと、久しぶりのSOS団の活動日。みんなで不思議を探しに、海に行くことになっている。……といっても、実はただの海水浴なんだけどね。
 キョンくんと古泉くんの観察日記もようやく再開。だけど、ちょっとキョンくんの態度がおかしいみたい。なんだか古泉くんに、すごくよそよそしい。ずっとそっぽ向いて視線あわせないし、ときどき目があうとあわてて逸らして、わざとらしくわたしに話しかけてきたりする。どうしたんだろう……ケンカかな。

「いや、別にケンカはしてないぞ。いつも通りだ」
 嘘。なんだか様子がおかしい。気もそぞろという感じ、と指摘したら、彼はあわてて首を振った。古泉くんの方はというと、一見普段と同じ様子で笑ってたけど、ときどき信じられないようなミスを連発しては涼宮さんに怒られてた。ヤキソバを砂浜にまるごと落としちゃったり、炭酸飲料を思いっきり振ってから開けて吹き出した中身を頭からかぶったり。どこか具合でも悪いの……?

「いえ、全然絶好調ですよ僕は。あはははは」
 どこか上の空の笑い方がやっぱりおかしい。さすがに涼宮さんと朝比奈先輩もおかしいふたりに気がついたみたいで、今日は早めに引き上げましょうと言って夕方になるまえに帰り支度をはじめた。

 駅で解散すると、キョンくんと古泉くんは一緒の方向に帰っていった。あっちは古泉くんの家の方向だから、このままキョンくんが遊びに行くのかな。



8月8日 日曜日

 今日も連続で活動日。涼宮さんは、2週間遊べなかった分を取り戻すつもりらしい。今日はゲームセンターとカラオケに行く予定。
 キョンくんはどうやら昨夜は、古泉くんの家に泊まったらしくて、待ち合わせ場所にふたり一緒にやってきた。でもなんだか、古泉くんの機嫌が悪い……のかな。怒ってるみたいな、拗ねてるみたいな感じ。ゲームセンターでは、キョンくんが古泉くんに気をつかってるみたいだった。カラオケではわりと普段通りだったけど、よく見てるとやっぱりやりとりがぎこちない気がする。
 途中でふたりして、全員分の飲み物をフリードリンクコーナーに取りに行ったら、なかなか帰ってこなかった。持ちきれないのかも、手伝ってくるねと涼宮さんに断って、わたしもドリンクコーナーに行ってみた。ふたりはコップをトレイに並べたまま、何か言い合いをしてるみたいだった。
 その場でメモできなかったから、記憶で会話再現。大体こんな感じ。

「……だから、気にすんなって。仕方ないだろ、俺たちふたりとも初心者なんだから。お手本みたいに上手くできるわけねえよ」
「それは……わかってるんですけど、やっぱりくやしくて」
 なんの話だろう。初心者? お手本?
「慣れてなくて手探り状態なんだし、暴発もしょうがねぇよ」
「……っ言わないでくださいよ! 一生の不覚なんですから!」
「大げさだな。なんだったら、ポジション変えるか? 俺が攻める方で」
「いえっ! いずれそっちにチャレンジしてもいいですけど、今回は僕がしたいです。お手本もあることですし」
「まぁ、俺はどっちでもいいんだけどな」

 ……そこまで聞いて、ああ、ゲームかって思った。
 ゆうべ、キョンくんが泊まり込んで、ふたりでやったんだろうな。お手本というのはよくネットに上がってるプレイ動画とかのことで、しかもポジションとか攻撃役がどうとか言ってるから、たぶんネットゲーム。攻撃系の剣士とか騎士とかと、回復・サポート役の魔法使いとか僧侶とかで組んでプレイしてるんだろう。
「まぁ、ゆうべはいきなりすぎたってのもあるんじゃないか。準備不足で、いきなり最後までってのはむずかしかったんだろ」
「だって! あそこまでいっておいて引き返すとか、できるわけないです!」
 あー、回復薬とかの準備を万端にしないで、強い敵のいるダンジョンとかに突っ込んじゃったのかな。気持ちはわかるけど……。
 古泉くんが力いっぱいそう主張したところで、わたしは恐る恐る口をはさんだ。ネットゲームなら、わたしも少しやってるから。

「あの……初心者は、いきなり突っ込んだりしない方がいいと思うよ……?」
 ふたりは突然現れたわたしに、ぎょっとしたみたいだった。
「つ、突っ込……って、長門!? お前、聞いてたの……か」
「長門さん? 一体、何を……」
 わたしは、ふたりがあんまり遅いから探しに来たのだと告げた。
「ネットゲームなら、わたしも少し知ってるから。初心者ならちゃんと、チュートリアルみたいなので練習して、弱い敵からやった方がいいと思う……」
「……っ! そう、そうだ。ゲームの話だった。そうだよな、段階を踏まないとな!」
 彼は急に声のトーンを上げて、うんうんとうなずいた。
「そうか、長門はゲームもくわしいのか! あーびっくりした!」
「たくさんやってるわけじゃないけど……」
「いや! 俺たちはじめたばっかでヘタクソなんだ。な、古泉!」
「ヘタクソですいません」
 ぷい、と古泉くんはそっぽを向いてしまった。意外と負けず嫌い?
「ちゃんと準備してから挑めば大丈夫、だよ」
「でも、あそこまでいってあきらめるのは、つらいんですよ! 男にしかわからないかもしれないけどっ!」
「だーっ! お前は長門相手に何を言ってんだ!」
 古泉くん、そのゲームによっぽどハマってるのかな。すごい意気込み。
確かに男の子の方が戦闘意欲というか、敵に背中を向けるのが嫌な気持ちは強いのかも。
「高いレベルとか強い武器とかないと、さすがにラスボスクラスはキツイと思う……。でも、集中すれば勝てるかも。お手本の動画がなにか、見たんでしょう?」
「はい。そりゃもう、自分で体験したかのような臨場感あふれるお手本を」
「じゃあ、それをもう1度ちゃんとよく見て……」
「それが、少し前から見られなくなってしまって」
 ああ、動画削除されちゃったのかな? よくあるよね、そういうこと。
キョンくんをちらっと見たら、なんだか落ち着かない様子でわたしと古泉くんを見くらべてた。
「とにかく、アイテムとか武器とかしっかり準備して、落ち着いてやれば大丈夫だよ。ホントは、練習して少しずつレベル上げていく方がいいと思うけど……どうしてもやりたいんでしょう?」
「はい、できれば一刻も早く! これ以上は我慢できませんからね」
 気合い充分って感じ……。そんなにくやしかったのかな。
「が、がんばってね」
「はいっ、ありがとうございます! ……というわけなので、今日も僕の部屋に泊まってくださいね。リベンジですっ!」
 すごい勢いでキョンくんの方を振り向いて迫る古泉くんを、キョンくんが必死に引き離す。顔が真っ赤だったけど、なんか怒ってたのかな。
「このアホーーーーっ! 何が、というわけなんだっ!」
「だってしょうがないじゃないですかー!」
「お前は、ちっと黙ってろ! 悪いな長門、この馬鹿がつい熱くなっちまって」
 決まり悪そうな顔で謝ってきたキョンくんは、そのあと不満そうな古泉くんをせかしながら飲み物を用意してた。わたしも手伝って部屋に戻ったら、涼宮さんに遅いって怒られちゃった。

 帰り際、解散してから見てみたら、キョンくんは古泉くんに引きずられるみたいに、やっぱり同じ方向に帰って行った。今日は徹夜でラスボスクラスの攻略かな?
 なんかだか楽しそうだな……。



8月9日 月曜日

 お昼くらいに涼宮さんからメールが来て、今日はボーリングに行くことになった。
涼宮さんは、本当はプールに行きたかったらしいんだけど、キョンくんが今日は体調が悪いからって強硬に嫌がったんだって。とにかく水着はマズイって言ってたみたいだから、もしかしたら風邪のひきかけなのかも。
 いつものファミレスに集まったとき、キョンくんは確かにぐったりしてた。ゆうべはたぶん、ゲームのラスボスクラス攻略だったと思うんだけど……。
 寝不足なのって聞いたら、キョンくんはテーブルに顔を伏せたままで答えてくれた。
「ああ……寝不足と疲労と……あと腰が痛……って長門!?」
 あわてて起き上がって、すごいびっくりした顔。どうかしたのかな?
「いや、うん、ちょっと熱中しすぎてな、徹夜というか、体力も」
「そうですねぇ。あなたがあんなに夢中になるとは思わ」
「黙ってろ!」
 今日もやっぱりキョンくんの向かい側に座ってる古泉くんは、対照的にものすごく上機嫌。いつもにこにこしてる人だけど、今日はその笑顔がすごく充実してるっていうか、達成感にあふれてるというか……手こずってた敵、きっと倒せたんだね。攻略成功?
「はい! おかげさまでばっちりでした!」
 古泉くん、すごく嬉しそう……。おめでとうよかったねって言ったら、長門さんのアドバイスのおかげですって言われちゃった。そんなにたいしたこと教えたわけじゃないのに、なんだか照れちゃうな……。
 でもキョンくんはげんなりした顔で、もう当分はやらんぞってぼやいてた。よっぽど疲れたんだろうけど、古泉くんの方はやる気充分で、せっかく憶えたんだから感覚を忘れないうちに上達したいって主張してた。
「うるさい! 俺の方は大変なんだぞ」
「それはそうかもしれませんが……でもっ」
「少しは自重しろ! どんだけ大変か、お前がこっちやってみるか!?」
「え、それでもかまいませんけど」
「……っ、お前な!」
 言い合いしてる最中に、涼宮さんと朝比奈先輩が何の話かって聞いてきた。ネットゲームのことだって知ったら、涼宮さんはあきれた感じで溜息をついて、男子ってバカねぇ! で、すまされてしまった。
「ほっとけ! そういうわけで、今日はパスだからな」
「えー……」
「うるさい。帰るったら帰る!」
 すっごく不満そうな古泉くん。でもキョンくん、ホントに疲れてみたいだし……。差し出がましいかもだけど、フォローしとこうかな?
「やりすぎはよくないよ?」
 思わずそう口をはさんだら、一瞬、キョンくんも古泉くんも固まってしまった。
え、わたし何か変なこと言った……?
「ゲームは、根を詰めすぎるとよくないと思う……。 目にも、負担がかかるし」
 そう言い足したら、ふたりはやっと動き出した。
「だ、だよな! ほら長門もこう言ってるし。目は大事だろ」
「えー、それってずるくないですか。大体、負担がかかるのは目じゃなくて」
「だからお前黙れ!」

 それからもふたりは、1日中ずーっと、ボーリングしながらケンカっぽい言い合いをしてた。でも、涼宮さんがものすごい勢いでストライクを連発しながら、
「まったく、犬も食わないなんとやらね! むかつくわっ!」
って言ってたから、たぶんそうなんだと思う。

 うまくいってるみたいで、よかった。



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「長門さん……このメモ、どうするの?」
 今日も夕食を届けに来てくれた朝倉さんが、わたしの観察メモを見て微妙な顔をした。
持ってきてくれたのは、冷やし中華。おいしいよって言ってから、わたしは答える。
「今書いてる小説の参考に……しようと思って」
「見せてくれないからどんな書いてるのか知らないけど、たしかSFっぽいのじゃなかったかしら?」
 うん。恥ずかしいから見せられないけど、確かに書こうとしてるのは、未知の惑星をめざしてる宇宙船の話。
「主人公と、なかよしの男の子の友情を深めるシーンに使えるかなって」
「う〜ん」
 朝倉さんはますます眉をしかめてから、わたしに言い聞かせるみたいな口調になった。
「いいけど、ちゃんとモデルが誰かわからないくらいにフェイクいれてあげなさいよ?」
「え、うん……そのつもりだけど」
 やれやれ、って感じで肩をすくめて、朝倉さんはメモを返してくれた。
「わかる人にはわかっちゃうんだからね。……まったく、キョンくんが読んだら憤死するわよ、ホント」
 …………?
 キョンくんが憤死する? これ読んで? なんでだろ……?
「あー、でも結構それって、面白いかも……」
 わたしが首をかしげてたら、朝倉さんは何か思いついたみたいで、急にニヤニヤしはじめた。ど、どうしたんだろう……。
「うん、そうね! いいわよ、長門さん。どんどん書いちゃって!」
「え、うん……。書く、よ……?」
「そしたらせっかくだから、文芸部の部誌に載せて文化祭で配りまくりましょうね! もちろん古泉くんと涼宮さんにも! うふふ、たーのーしーみ!」
 朝倉さん……? なんかその笑顔、怖いよ……?



                                                   END
(2010.10.24 up)
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消失長門さんは天使。

リクエストSS 「気になる長門メモの内容」でした。
読み終わると内容がわかってすっきりしたはずなのに、実はさらに気になることが増えているという意地悪仕様(笑)