「はぁ……お前、また中で……」
「あはは、すみません」
「……もういい。文句言うのも疲れた。あーもう、今日は何回ぐらいしたんだっけ」
「さぁ? いちいち数えてないですね」
「……シャワー浴びてくるわ」
「いってらっしゃい」
「コーヒー飲みますか」
「うん。なんか、腹も減ったな」
「夕飯食べてからだいぶたちますし、たしかに小腹が空く頃ですか。冷蔵庫でも見てみてください」
ガチャ
「相変わらず、何も入ってねえ冷蔵庫だな。飲み物と調味料だけか。あ、なんだこれ……げっ、チーズのなれの果てか。カチカチだな」
「たぶん、半年ぐらい前に買ったものかと」
「おま、たまには整理しろよ冷蔵庫の中くらい」
「苦手なんですよ、そういうの。ああ、冷凍食品ならいっぱいありますよ」
ガラッ
「すごいな、ぎっしりだ。こんなのばっかり食ってんのか」
「まぁ、あとは弁当とかコンビニのおにぎりとか」
「……野菜も食えよ。お、肉まんがあるな。古泉、これあっためて」
「はい。……コーヒーと肉まんってどうなんでしょうね。組みあわせ的に」
「別にいいだろ。あ、俺3つ」
「食べ過ぎですよ、こんな時間に」
「さっき消費した分のカロリー補充だ」
「何気にすごいこと言ってますね」
「あちっ!」
「火傷しますよ。気をつけてください」
「なかなか美味いな。ん、お前2個なのか」
「1パック5個入りです」
「そうか。コレ半分食うか?」
「ふふ。いえ、いいですよ。召し上がってください」
「んじゃ遠慮なく。あ、そうだ、古泉」
「はい?」
「来週、うちに夕飯食べにこいよ。たまには食いたいだろ、家庭料理」
「いいんですか?」
「ああ。なんかお前、俺の親と妹に気に入られてるし。いつもコンビニ弁当とか冷食食ってるみたいだからって言ったら、毎日でも食いにこいってさ」
「はは。毎日というわけには」
「そのうち弁当まで作り出しそうな勢いだったな、あれは」
「ありがたいですが、申し訳ないですね。それは遠慮させていただきましょう」
「まぁな。とりあえず、夕飯は決定な。泊まる用意してこいよ」
「了解です」
「ああ、するのは禁止な。いつ妹が襲撃してくるかわからん」
ブーッ!
「きたねえな。コーヒー吹くな」
「あなたがとんでもないことをいうからですよ! なんでご家族がいるところでそんな。僕がそこまで節操なしのケダモノに見えますか!」
「お前なら、こういうのもなかなかスリルがありますよね、とか言いそうだろ」
「……」
「想像すんな、この節操なしのケダモノが」
「……すみません」
「添い寝くらいならしてやってもいいぞ?」
「それなんて生殺しですか」
「そういや古泉、あれ今月号出た?」
「本棚にありますよ」
「あれでよくわかったな。まあいいや。えーっと……」
ゴソゴソ
「お、あったあった。……またずいぶん本が増えてんな。ほとんど海外ミステリか」
「ちょっと気に入ったシリーズがありましてね。大人買いしちゃいました」
「全部読み終わったのか?」
「いえ、一気に読むともったいないので、ちびちびと読んでます。あなたも読みます?」
「やめとく。翻訳ものって、正直読みにくい」
「まぁ、独特のクセがありますからね……ところで何を探してるんです?」
「いや……健康な高校生男子の部屋にはつきものの本や映像媒体のたぐいをだな」
「ありませんよ」
「そうか、ないの……えええええええええええええええええっ!?」
「……そこまで驚かなくても」
「だってお前……えええええええ!?」
「万が一、涼宮さんに見られるようなことがあったら、せっかく作り上げてきたイメージが一瞬で壊れますからね。そんな危険なものは置いておけません」
「いや……ああ、そうだな。今はネットもあるしな」
「うちのパソコンには有害サイトフィルターはいってます。一応、機関の持ち物なので。会社扱いですね」
「……」
「なんですかその、未知の生物を見るような目は」
「古泉よ。折り入って聞きたいのだが」
「はい、なんでしょう」
「お前は……その、自分でしないのか?」
「しますよ。当たり前でしょう」
「そうか、それを聞いて少し安心したぞ。それで、本もDVDもネットもない状態で、君はオカズをどこから調達しているのかね」
「ヒミツです」
「即答かよ。なんで今更俺に隠すんだよ。いいじゃねえか教えろ」
「痛たたっ! 痛いですよ、しかも首しまってます首」
「教・え・ろ」
「聞いたら、絶対引きますよあなた」
「そんなにマニアックなのか」
「まぁ、ある意味」
「公序良俗には反してないだろうな」
「どうでしょう。そう言われると自信が……って苦しい苦しい!」
「この外道が!」
「だって、どこまでが善良なる風俗かとなると」
「はぁ?」
「あ、」
「言えよ。ホラ、さっさと吐いて楽になっちまえよ、なぁ?」
「く、くすぐるのやめてくださいっ! あっ、腋はダメっ!」
「ココがイイんだよな? ん?」
「あははははhやーめーてー!」
「ときどきドSですよね、あなた」
「うるさい、お前に言われたくない。で?」
「もーしつこいですね……」
「さっさと言え」
「………………た、ですよ」ボソッ
「聞こえないぞ、なんだって?」
「ええいもう! だから、あなたですってば!」
「は?」
「1年ちょっと前から、僕の夜のお供はぜーんぶあなたですっ。毎日一緒にいますから、もう毎日新鮮なネタがって、ほら引いた! だから言いたくなかったのに」
「……そりゃ確かにマニアックだな」
「恥ずかしいこと言わせないでくださいよ、このドSめ」
「ははは。需要は世界でお前ひとりって、どれだけニッチなんだ」
「……そうでもないと思いますけどね」
「ん? 何がだ」
「いえいえ、鈍感なあなたに感謝してますよ」
「なんだよ、怒ってんのか。そりゃ無理に聞き出して悪かったが」
「いいんです。どうせ僕は、マニアックな変態ですから」
「すねるな。お前がいじけても可愛くない」
「可愛くなくて結構です。変態ですから」
「なんだよもー、俺が悪人みたいじゃねえか。言っておくが、俺も最近は7対3くらいだからな」
「……なにがです?」
「お前とグラビア系の割合だ。言わせるなバカ」
「……」
「まじまじと見るな」
「……7割の方なんですか?」
「逆転してきたんだよ、だんだん。世も末だ」
「えーと」
「なんだ」
「誘ってますよね?」
「ねえよ!」
「そんな。じゃあ今、滾ってきている僕のこの情熱をどうすれば」
「知らん。水でもかぶって……っておいやめろ離せ」
「あ、灯り消しましょう」
パチ
「ちょ、待てって!」
「待てません」
「……だから、何回目なんだ今日1日で」
「ですから、いちいち数えてませんって」
「もう、こんだけ中出しされると、妊娠してもおかしくない気がしてくる」
「僕はかまいませんよ? してくださっても、一向に」
「できるか!」
「涼宮さんに、そのような願望を抱いていただけば、実現するかもしれませんねえ」
「絶対やめろよ、お前」
「あこがれますね、新婚家庭」
「シャレにならん。ハルヒに余計なこというんじゃないぞ」
「残念です」
「バカ言ってねーで、そろそろ寝るぞ。ほら風邪ひくから、これ着とけ」
「はい。……あれ、これあなたのTシャツですね」
「あ、ホントだ。こっちがお前のだな。まぁフリーサイズだからいいか、このままで」
「そうですね」
「……なにをニヤニヤしてんだ、気持ち悪いな」
「いえ、別に。おやすみなさい。よい夢を」
「なんだよ、って、まぁいいか。おやすみ、古泉。また明日な」
END
(2009.11.27 up)