最低な男−キョンSIDE−
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 天にも昇る気持ち、ってやつだったんだ、俺は。
 だってそうだろう? ずっと片想いしてたやつと音信不通になって、もうダメなんだと絶望してたとこに、偶然の再会。その上、実は両思いだったことが判明して、そのままの勢いでいくとこまでいっちまった。
 やっと想いが通じたんだ。幸せで有頂天になったとしても、おかしかないだろ? 
 それなのに。
「あの……僕はあなたに……一体、何を?」
「はぁ?」
 翌朝、ホテルの同じベッドで目覚めたあいつは、青い顔でそう言った。
 しどろもどろでつぶやくセリフから察するに、どうやら昨夜の記憶が途中からないらしい。しかもあろうことか、告白からその後の経緯がすっぽりと抜けているときた。
 そのときの俺の心情を、察してもらえると嬉しい。天国から地獄ってのはこのことだ。
「……古泉」
「はい……」
 だから、思わずこう言っちまったのも、無理からぬことだよな?

「お前、最低だな」



 高校を卒業後、俺はなんとか胸を張って人に言えるレベルの大学に合格し、晴れて大学生となった。
 統合情報思念体から独立し、俺以外に頼るものがいないのだろう長門が同じ大学に入ってきたのはまぁ予想範囲内だったのだが、まさかハルヒまで同じところだとは思わなかった。あいつは確か、もっといい大学にも受かってたはずだったんだがな。
 まぁたぶん、大学生になってもSOS団を存続させようって思惑だったんだろう。朝比奈さんは未来に帰っちまったから(ハルヒには留学したと言ってある)、もともと4人になるはずだったんだが、思わぬ不測の事態ってやつで、それもかなわなくなっちまった。誰もが予想してなかった。

 まさか古泉だけが、違う大学にいっちまう、なんて。

 そりゃああいつは特進クラスの生徒だったし、はたから見れば一流国大に行くのが当たり前だったけど、まさかあいつがハルヒから……そしてちょっと自惚れてよければ、俺から、離れるなんて思わなかった。ハルヒの神的な力は確かに消えたけれど“機関”とやらは存続してたし、古泉は超能力こそなくなったがアルバイト自体は続けていたから、てっきりハルヒの側で監視とも観測ともつかないなれ合いを続けていくものと、俺は思ってた。
 でもあいつは、卒業と同時にそれまで住んでいたマンションを引き払い、携帯も変えたのか電話もメールもつながらなくなった。
 その事態は、かなりのショックを俺に与えた。いつの頃からか、俺は古泉を……友達としてじゃなく恋愛的な意味で、好きだと自覚していたから。

 まぁな。それに気づいたときは相当悩んださ。だが自分で言うのもなんだと思うが、俺は許容範囲が広くて順応が早い。これが自分の本心ならしょうがねえと受け入れてからは、迷うのはやめた。開き直ったと言ってもいい。
 それでも告白なんてことは考えなかった。受け入れられるはずもない想いを告げたりして人間関係を崩すのは怖かったし、ハルヒにとって大切なSOS団がそんなことでギクシャクしたら、世界崩壊の危機だ。シャレにならない。だから俺は、古泉が向けてくれる友情(と思っていた)を嬉しくも悲しくも感じながら、卒業までの月日を過ごしたのだ。
 卒業目前にようやく、言っちまったら世界崩壊フラグだった事情がなくなった。それなら、もうちょっとなんとかできるかもしれないと思ってた矢先に起こったのが、古泉の別大学への進学と音信不通だ。俺が絶望したのだってわかるだろ。
 なんとなく、あいつの態度や言葉から、少しくらいは希望があるんじゃないかと思ってた自分にも絶望したね。バカみたいだと思ったし、最悪、実はこの気持ちを見抜かれてて、迷惑だと思われてたのかもしれないとも考えた。
 だってそれ以外に、3年間一緒に過ごして、いろんな修羅場もくぐり抜けてきた仲間と音信不通になる理由なんて、考えられないだろ?



 そういうわけだったから、偶然に駅前で再会したとき、あいつが以前と同じように笑ってくれて、心底ほっとした。
「お久しぶりですね」
「まぁ……数ヶ月ってとこだけどな」
「まだそんなものでしたっけ? 引っ越しやらなにやらで忙しかったので、ずいぶん時間がたった気がします」
 そんなことをあっけらかんという古泉に、俺は考えすぎだったかと力が抜ける思いで、せっかくだからメシでも食わないかと誘いをかけた。いいですねとうなずいてくれた古泉を連れて、そのへんにあったチェーンの居酒屋に入った。
 大学生になっても、古泉は特にかわりないようだった。もうそんな必要もないだろうにやっぱり敬語で、終始ニコニコと笑っている。このイケメンでこの物腰で、しかも一流大学なんだから、さぞかしモテるんだろうな。
「あはは。別にそんなこともないですよ」
 その余裕の言い方がムカつくんだっての。
 それにしても、こいつが俺とハルヒがつきあってると思っていたとはな。確かにあいつとはいまだに……というか、むしろ高校時代より仲良くやっているとは思うが、今も昔もあいつに恋愛感情はわかないんだ。ほかに好きなやつもいたしな。いや、今もなんだが。
 笑ってくれていいぞ。俺はいまだにふっきれてない。未練タラタラだ。情けないことに。
「それなら、たまにこうして飲んだりするのにお誘いしても、大丈夫そうですね」
 古泉のそんな言葉に、思わずニヤけちまうくらいにな。



 終電は、わざと逃した。
 明日の講義が午後のヤツだけだということも計算済み。別に何かを期待したってわけじゃないが、正直、離れがたかったんだ。
 古泉も、相変わらずゴツイ腕時計をしてるくせに忘れていたらしく、終電を逃したと俺がつぶやいたときに、そういえば僕もです、なんて間の抜けたことを言った。そんなんじゃ、今時の肉食系女子にすぐ食われちまうぞ、お前。
 そう思ったとき、はっとした。さっきも思ったじゃないか。こんな高スペックの男、女が放っておくわけがない。高校時代ならともかく、大学になら積極的な女なんて山ほどいるだろう。ならもうとっくに、彼女の1人や2人いてもおかしくはない。

「お前はどうなんだよ」
「はい?」
 3軒目、古泉のなじみらしい店に移動してから、俺はそう聞いてみた。店内のモニタに流れてたモノクロの恋愛映画について、奴が滔々と垂れ流す解説を質問で遮る。
「恋人。できたのか」
「……いえ。特定の相手はいませんよ」
 へぇ。特定じゃない相手ならいるのかよ。
「そういう意味じゃありませんって」
「でもモテんだろ? 高校のときだって、しょっちゅう告られてたよな」
「まぁ……でも、あの頃はそんな状況じゃありませんでしたし」
「……好きなやつくらい、いなかったのか?」
 目に見えて、古泉はたじろいだ。そうか。……いたのか。
「ハルヒ、か?」
 もしそうなら、卒業と同時に俺たちから離れたのも納得できる。どうやらこいつは、俺とハルヒがつきあってると誤解してたみたいだし。
「いえっ! 違いますっ! それだけはないです、絶対」
 だがやつは、ぶんぶんと首を左右に激しく振って否定した。とたんに酔いがまわったのか、頭を抱えてテーブルに突っ伏す。なにやってんだよ。
「じゃあ誰だよ。教えろよ、内緒にしといてやるから」
 誰に負けて失恋したのかくらい、知っておきたいじゃないか。でなきゃ、なかなかお前をあきらめられない。
「そんな……言えませんよ」
「そうか。飲みが足りないか。……マスター、なんか強めのヤツ」
「ちょっと!」
 俺は古泉の固い口をゆるめるべく、強めの酒をどんどん注文して奴に勧めた。断り切れずに飲み続ける古泉は、だがけっこう酒には強いらしく、顔を少々赤くしているくらいで変化は少ない。
「で、誰なんだよ。ハルヒでも長門でも朝比奈さんでもないとすると……9組の子か?」
「だから、消去法で攻めるのやめてくださいって」
「まさか機関の……森さんとか?」
「恐ろしいこと言わないでください」
 なかなかに口が固い。それでもさらに飲ませ続けていると、さすがの古泉もだんだんろれつがまわらなくなってきた。
「だからぁ……ひみつ、ですよ……」
「なんでだよ。もういいじゃねえか」
「……ぜったい、言っちゃいけない、ひとなんです」
 古泉の声は、だんだん小さくなっていく。俺はテーブルに突っ伏しそうになっている古泉の顔に顔をつきあわせ、声を聞き取ろうとした。
「好きだって、言っちゃいけない相手?」
「ええ……」
「……なんで」

「せかいが……こわれるから、です」

 ……え?
 好きだと伝えると、世界が壊れる? そんなことがあるとしたら、それはあのころのハルヒがらみに相違ない。でもまだ意識がしっかりしてたとき、こいつはハルヒではないとはっきり否定した。それなら……?
「誰だ……?」
 古泉が顔を上げる。とろん、とした瞳が俺を映した。
「……あなた、です。ずっとずっと、好きでした。……ああ、こわれましたね、せかい」
 それきり古泉は、テーブルの上にことん頭を落とした。かすかな寝息が聞こえてきたが、俺はその姿勢のまま動けないでいた。
 こいつは今、なんて言った……?
 ずっと、俺のことが、好きだったって。そう言わなかったか?
 そういえばこいつは、ハルヒと“俺が”がつきあっていると思い込んでいた。
 違う大学に進み、卒業と同時に音信不通になったのは、だからなのか……?
「おい、古泉」
「ん、はい」
 呼びかけると、すぐに顔をあげた。ああ、でも酔ってやがるな。
「……出るぞ」
「りょーかいです」
 半分寝てるみたいな顔してるくせに、受け答えも足取りもしっかり。変な酔い方だな、こいつ。始発にはまだ早いと忠告してくれるマスターに礼を言って勘定をすませ、俺は古泉の腕をつかんで店から出た。足取りには不安はないが、離せなかった。
「古泉?」
「はい」
「……さっき言ったことは、本当だな?」
 一瞬きょとんとしたあと、古泉は困ったように笑った。
「本当です……すみません」
「なんで謝るんだ」
「……すみません」
「だからなんで」
「……すみま……せん」
 悲しそうな顔で立ち尽くす古泉を、俺はひっぱって歩き出した。古泉は抵抗も行く先を聞くこともせず、ただ俺に引かれるままついてくる。どうしようもない衝動が、俺を突き動かしていた。



 さすがに、ラブホテルなんてあからさまなところには入れなかった。男同士だと拒否されると聞いたこともあるしな。本当かは知らないが。幸い、ビジネスホテルで入れるところを発見した。完全に酔っぱらいな古泉を見てホテルのフロントがどう思ったのか、前金をとられて、なんとか俺たちはツインの部屋を確保した。
「ここ、は……?」
 きょろ、とあたりを見回して、古泉は首をかしげた。
「ホテル。見りゃわかるだろ」
「はぁ」
「いいから座れ」
 俺は片方のベッドに奴を座らせ、その両肩に手をおいた。見上げてくるその目を、じっと見つめる。あー恥ずかしい。恥ずかしくて死にそうだ。
「……あのさ、古泉」
「はい」
「えーと……なんだ」
 言えない。ずっと言いたかったのに、いざとなるとなかなか声に出せない。だから俺は勇気を振り絞って、そのまま奴の唇に、唇を押しつけた。
「……んっ」
 一瞬、何が起こったのかと混乱したのだろう。硬直していた古泉が、やがて俺の背中に手をまわした。とたんに、ぐいと引き寄せられ、身体を入れ替えベッドに押し倒される。のしかかってきた古泉が、舌で唇をこじあけもぐりこませてきた。からめとられ、すすられ、なぶられて、身体の奥にたちまち火がついた。
 そんな状態なのに、この男は妙に冷静な顔で、聞いて来やがるんだ。
「あのっ……いい、んですか?」
 この後に及んで、聞くかそういうことを。
 俺は奴の背中にまわっている手に力をこめて、うなずいてやった。

「俺も好きだから……来いよ」



 あれ、俺がされる方なのか?
 服を脱がされ、喉やら胸やら脇腹やらを舌がなぞるのを感じながら、いまさらながらそんなことを考える。同性同士なんだから、どっちかが女役をすることになるのは当然だが、正直、そこまで具体的に考えたことがなかった。でもまぁ、このままで特に違和感はないし、こいつの舌も手も気持ちいいから、かまわないことにしよう。
 なんて思ってたことを後悔するのは、終盤のことだ。
「ちょ、古泉……っ、お前」
「なんですか。いまさらやめろとかいうのは、むりな相談、ですよ」
「いや、言わないがなんか、手慣れてないか、お前っ」
「そんなことないです。はじめてです」
 なんかそうしれっと、嘘っぽいことを言われてもだな。
「な……っ……んっ!」
 首から順に下へとなぞってきた舌が、臍の周囲をぐるりと円を描くように這う。そんなところが性感帯になるなんて知らなくて、いきなり全身を貫いた快感に身を震わせた。ビクビクと身体が痙攣してしまう。
「ん、硬いですね、もう」
「や……!」
 アレを握られてゆるゆるとこすられる。触れるか触れないかぐらいの微妙な感触が、じれったくてたまらない。そのまま肩を抱かれて、また唇がふさがれる。すぐに入り込んできた舌をしつこくからめあっていたら、いきなり強く握られてビクリと身体がはねた。
「痛っ」
「てっ」
 はずみで歯がぶつかった。痛てぇ。
「ゴメン!」
「すみませっ……」
 お互い同時に謝ってしまい、思わず笑いがこみあげる。古泉が酔ってるせいか、なんかシリアスな感じにならないな。一応コレ、俺の初体験なんだが。
 だがまぁ、おかげで緊張はほぐれた。
「うひゃ、そこ……くすぐった……っ」
「すぐきもちよくなりますって」
 乳首を舐められて、思わず首をすくめた。片方を舐めたり吸ったり噛んだりしつつ、もう片方を指で押しつぶしたりつまんだり。最初はくすぐったいだけだったが、ホントにだんだん気持ちよくなってきた。いつのまにか硬く尖った突起は赤く色づいて、古泉の唾液で濡れている。ちゅ、と音がするたびに、腰の奥に疼きが走った。
「んん……っ」
 ちゅ、ちゅ、と肌にキスする音が、だんだん下のほうへと下がっていく、どんどんそこへと近づいてくる期待感に、身体が震える。とうとう臍を超えたとき、ソレにふっと熱い息がかかった。うわ……!
「もうびしょびしょですよ……いやらしい、ですねぇ」
「しょうが……ねえ……だろっ!」
「では、いただきます」
 そんなふざけた声が聞こえた直後に、ソレが熱いぬめったものに包み込まれた。先端から根元のほうまで覆われたと思うと、やわらかな湿った感触がずるりと先端に向けて舐めあげる。
「んぁ……っ!」
 感じたことのない感覚が、一気に背筋を走り抜けた。
「ン……ふっ……」
 ぴちゃ、とかずずっ、とかいやらしい水音と時々もれる古泉の声が、鼓膜を刺激する。ものすごい快感が下半身から這いのぼる。うっすらと目を開けて下を見てみたら、眉を寄せながら俺のを口に出し入れしたり舌で舐めたりしている顔が見えた。やばい。
 なんか、あらゆるものがすごすぎる。気持ちよすぎて、脳みそが溶けそうだ。
「ふ、く……っ、も……だめ……」
 あっというまに追い詰められて、射精感が高まる。もうもたない。
「あ……こいず……ん、も……出る……からっ」
 離れろ、というつもりで頭を押したが、びくともしない。しかも少し強めに、吸い上げてきやがった。そんなことされたら……っ! あ、ダメだ……!
「うぁ……っ! イ……く……っ!」
 つぶった目蓋の裏が白く灼きつく。とてつもない開放感を伴って、俺は勢いよく欲望を解放していた。ぜいぜいと息をつきながら目を開けてみると、古泉がごくりとのどを鳴らして何かを飲んで、さらに手についた白っぽいものを舐めていた。おーい。
「ごちそうさまでした」
「……飲むなよ……」
「もったいないじゃないですか」
 何言ってんだよもう。わけわからん。
「じゃ、つぎは僕の番ですね」
「ふぇ?」
 つぎってなんだ、と思っている間に、俺は身体を裏返されて押さえつけられた。今のでまだ、身体にはあまり力が入らない。あれ? と思っているうちに、腰を上げさせられて、後ろの……えーと、穴に、何か……指かコレ……が入ってきた。
「うあ……! ちょ、あ……ふぁ!」
 そこからはますます、なんだかよくわからなくなった。
 じゅぷじゅぷ、なんて水音とともに後ろが、慣らされていく。中をかきまわされてこすられて、どこをどうされたのかはわからないが、すごい快感が断続的に襲いかかってくる。俺はひたすら声をあげ、唇の端から唾液まで垂れ流して、シーツをきつくつかんでいるのが精一杯だった。もう……なんだこれ……っ。
 やがて、背中に感じていた古泉の熱い息が、余裕のない声になって吐き出された。
「ん、もう、がまん、できませ……すみません!」
「いっ!」
 痛ってぇ! こいずみっ、痛い!
「すみません、少しだけ……がまんを……っ」
 痛い! 痛いから! すまん、舐めてました! 違和感ないからかまわないとか言っててゴメン! 死ぬから絶対!
 押し広げられる感覚と裂けるような痛み、それから強烈な質感。何かが俺の中を浸食する。ぎっちりとつまったモノが、やがてぐいぐいと動き出して圧迫される。あまりの痛さと苦しさにどうしてくれようかと思っていた俺の中に、やがてちょっとずつ違う感覚が生まれてきた。あ、なんか、気持ちいい……かも?
 俺の声の感じが変わったのに気づいたんだろうか、腰を抱いていた古泉の右手が前にまわり、再び勃ちあがり張りつめていた俺を握った。中と外、両方同時にくわえられた刺激が強すぎて、ビクビクと身体が震えるのを止められない。
「うくっ……ぁ……は……っ」
「あ、しまる……っ……そんなに……っ」
 後ろを向いてるから顔は見えないが、古泉の声がだんだん切羽詰ってくるのがわかった。イくのか……、俺で、イくんだよな?
「う……んっ……あぅ……っ!」
 古泉があげた声にあわせるように、俺もまた達してしまう。同時に腹の中に熱いものが、じわりとひろがるのを感じた。ぎゅっと強く俺を抱きしめてから、古泉は脱力した。
 俺の中でイッたのか……なんだか嬉しい。
「こいず……み……?」
 そのまま、古泉は何も言わなかった。ただ俺の身体の上でぐったりと脱力しきっている。大丈夫か、と顔をあげたら、すぅすぅと幸せそうな寝息が聞こえた。
 ちょっと待て。
 抜かないままで寝るってアリか。どうすんだ、この状態。



「こんな顛末だ。少しは思い出したか、最低男」
「はぁ……なんか僕、変態っぽいですね」
 酔ってむりやり襲ってしまったと思っていたらしい古泉に真相を話してやると、記憶がところどころ戻ってきたようだ。それとともに、自分が言ったりしたりしたことが思い出されて恥ずかしいらしく、枕を抱えてもだえている。でかい図体の男がやっても可愛くないからやめろ。
「ちなみに後ろはちょっと裂けたぞ。しばらく痛かった」
「申し訳ありません……もう、大丈夫なんですか」
「お前なぁ……」
 枕を抱えてベッドに転がったままの裸の胸に、どっかりと足を乗せる。するっと上掛けが落ちて丸見えになりそうになったので押さえながら、がしがしと蹴飛ばしてやった。
「け、蹴らないでくださいよ」
「うるせぇ。大丈夫じゃなかったら、こんなことしてねえんだよ」

 お前の新しい部屋のベッドで。
 ふたり素っ裸のままで、ゴロゴロと。

「よかった。また無理なことさせたんじゃないかと、心配になりました」
 告白のやり直しをして、どうしてもその後のこともやり直したいと言いつのる変態男に、最低だなと言い渡しつつ、実のところ俺もその誘惑に逆らえなかった。
 ようやく2年半ほどの片想いが実ったと思ったら、全部忘れられてたって笑えない状況に、数日間落ち込みっぱなしだったんだ。あがりかと思ったらいきなり振り出しに戻されたすごろくじゃあるまいし、あんまりな展開だと思わないか? まさかハルヒや長門に相談するわけにもいかなくて、こいつが眠ってるすきにこっそり交換しといた携帯番号を見つめては、俺はずっと溜息ばっかりついていた。
 俺のそんな様子を心配したハルヒが、持ち前の行動力を発揮して古泉の大学に乗り込んでいったと聞いてあせったさ。あわててあとを追いかけたけど、ハルヒが問い詰めてたこいつの顔を見たときに思ったよ。このまま逃げてちゃダメだって。
 だってさ。やっぱり好きなんだ。
 このままで終わっちまったら、悲しすぎる。
 だから残りの勇気をありったけ振り絞って、ちょっとでも思いだしてくれることに賭けたんだ。幸い、古泉の記憶は戻ってくれた。ホントにカケラだけだったが。
 それでも、ふりだしから動くに動けなかったコマをやっとあがりに戻せたんだから、我慢なんかできるわけないよな。

「酔ってるときもあれだったけど……お前さ」
「なんですか?」
 今日の、素面の古泉の抱き方はすごく優しくて、後ろの方ももうしつこいくらい丁寧に慣らしてくれたから、まったく痛くなかった。それどころかあんまり気持ちよすぎて、いじられてる最中だけで3回イッた。もう最後にはじれったくてどうしようもなくて、俺から挿れてくれなんて懇願しちまった。思い出すとかなり死ねる。
「……そんな顔して、エロ過ぎだな」
 古泉はしばらく目をぱちくりとさせていたが、やがてくすりと笑いやがった。
「それは、おねだりですか?」
「耳おかしいぞお前。そう聞こえるのか」
「ええ。もっとたくさんして欲しいって、聞こえます」
 その、やけに楽しそうな顔を見て、俺はもしかして、と思いついた。
 傷つけないよう丁寧に慣らされて、結局我慢しきれなかったさっきのアレ。もしかして俺、わざとじらされて……言わされた、んじゃないか?
「どうされたんですか? 妙な顔して」
「……なんでもねえよ」

 ……やっぱりお前は、最低だ。
 いろいろとな!


                                                   END
(2009.12.14 up)
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と言うわけで、古泉の記憶補完編です。こんなことがあったんですよ的な。
キョンデレっていうより、やっぱりガチキョンです。本当にありがとうございm